このエントリーをはてなブックマークに追加

阪大の先生⑯日比孝之さん 数学は文化的無形遺産

あこがれの数学者との共著を手にする日比さん。「数学者も体が資本」と健康に気をつかう。「長生きすれば、それだけ考えられる」

 「平行四辺形の面積の求め方は?」と尋ねられれば、「底辺×高さ」という公式が頭に浮かぶだろう。今も昔も、小学校で習う基礎中の基礎だ。しかし、「底辺×高さを求めると、どうして平行四辺形の面積になるの?」と、小学生に質問された時、果たして納得させられる説明ができるだろうか。同様に、日常よく使われるあみだくじが、1つの始点からは、それに対応する1つの終点にしかたどりつかないのは何故かという理由を、明快に説明するのは難しい。

 大阪大学情報科学研究科で数学を研究する日比孝之教授は、「平行四辺形の話は、面積や体積の一般論『カバリエリの原理』につながるし、あみだくじの法則は数学的帰納法で証明できる。普段の生活の中に数学はたくさんある」と話し、「公式を覚えるだけでなく、こうした『何故?』という疑問を小さいころから持つことが、数学者のセンスを育てる」と続けた。

 1995年に大阪大学に着任して以来、日比さんは多くの教え子を育ててきた。「入試問題は答えがあることがわかっているし、誰かが解いたことがある問題。それがいくらサクサク解けたところで、数学者として大成するとは限らない。数学の論文は、誰も解いたことがない、答えがわかっていない問題を自分で見つけ出さないと書けない。つまり疑問を抱き、自分で作問する能力が重要」という。「5年に1人くらい、そうしたセンスがずば抜けた子が入ってくる。彼らとの議論はとても楽しい。研究室でやるよりも、外に出て食事をしながらの方が、面白いアイデアが出て来る」と笑う。日比さん自身、趣味の散歩が数学的センスを磨く最良の時間とも話す。「頭がリセットされて、間違いにもよく気付く」という。

 数学は、いくら年月を経ても色あせることはない。「古代ギリシャで発見され、今も定理となっているものはたくさんある。数学は文化的無形遺産なんです」と日比さん。そして「世界共通言語でもあり、世代を超えて取り組めるもの」と話す。「私より15歳年上の、ドイツの天才的数学者がいる。初めて会った28歳の時は、雲の上の存在で話しかけることすらままならなかったけど、その後は共同で論文も執筆し、少し前には共著も出版できた」と笑顔を見せた。その笑顔は、鉄人28号の敷島博士や鉄腕アトムの御茶の水博士にあこがれていたころの、日比少年のものと同じものなのだろう。

 あと数年で定年退官となるが「死ぬまで数学。これまでの自分の研究もまとめて後世に残したい」と力を込めた。(礒野健一)

更新日時 2013/01/10


関連地図情報

関連リンク