このエントリーをはてなブックマークに追加

阪大の先生㉖吉富志津代さん 共に助け合う地域国際化

「震災から20年目となる2015年に、活動の一線からは退くつもり」という吉富さん。緊急時通訳のうち、司法通訳は業務として定着してきたが、医療通訳は制度も理解もまだまだ足りないという

 大阪大学グローバルコラボレーションセンターの吉富志津代特任准教授に会うために向かったのは、神戸市長田区だった。JR鷹取駅からほど近い、たかとりコミュニティーセンターに事務所を構える多言語・多文化コミュニティー放送「FMわぃわぃ」代表理事、日本在住の外国人に向けた通訳・翻訳活動を行う「多言語センターFACIL」代表が、阪大と並ぶ吉富さんの職場だからだ。
 吉富さんは京都外国語大学でスペイン語を学び、アルゼンチン、ボリビアの在神戸領事館に勤務した。「当時から、在日外国人の緊急時コミュニケーションの難しさは感じていた。例えば『階段から落ちた』という状況を救急病院に説明する場合、スペイン語ではまず通じない」と振り返る。1990年には入国管理法が改正され、日系人の就労が容易となり、南米を中心に多くの労働者がやって来た。しかし、パスポートを預かって低賃金で働かせるなどトラブルが頻発。かけ込み寺状態となった領事館の業務が激増する中で、阪神大震災が起こった。
 日本人でさえ混乱するなか、外国人は避難先の指示も理解できない状況だった。そこで避難情報を多言語に翻訳するボランティア活動が、多言語センターFACIの始まりだった。また、広い地域に外国人に災害情報を伝えるために設立されたのが、FMわぃわぃだ。これらを軸として、震災で大きな被害を受けた長田区に、地域と密着した多文化・多言語のコミュニティーが生まれ、育っていった。
 吉富さんは強調する。「近くに住む日本語が通じない外国人に対して、『かわいそう』や『助けてあげる』という接し方は違う。私たちも彼らの力を借りて『助けてもらう』。そういう関係でなければならない」。それは、外国人に限ったことではない。隣近所にどんな人が住み、どんな生活をしているかを把握すれば、災害時にできる行動の幅も広がる。
 「これまでやってきた活動に、大学をもっと巻き込んでいきたい」と話す。コミュニティー防災という枠の中で、学生がそれぞれの特性を発揮すれば、現場の人にとっても勉強になる。「大学は教育だけでなく、集積した知識を還元し、地域社会に役立つ、信頼される場でなければいけない。その実践の場を作るのが私の役目」と力を込めた。(礒野健一)

更新日時 2013/11/14


関連地図情報

関連リンク