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阪大の先生㉕菅沼克昭さん 鉛フリーはんだの世界

世界初の量産型ハイブリッド車、トヨタ・プリウスの心臓部とも言える、電気の直流・交流交換器も菅沼さんが開発した。「開発したものは、自分の子どもみたいなもの」

 紀元前から、物を接合する素材として使われていたはんだは、科学技術の発達とともに重要度を増し、今はパソコンや各種家電製品など、あらゆる機器に使用されている。しかし、旧来のスズと鉛によるはんだには、鉛中毒の危険が伴った。大阪大学産業科学研究所の菅沼克昭教授は、鉛を使わない「鉛フリーはんだ」を広め、人にも環境にも優しい世界の構築に尽力した。
 20世紀末、電子機器の需要が増えるに伴い、廃棄されたそれらをどうすべきかという問題も大きくなった。鉛が含まれる電子機器を普通のゴミのように扱えば、環境への悪影響は計り知れない。折しもヨーロッパが電子機器に対して厳しい環境基準を課し、輸入制限をかける動きが出ており、菅沼さんは「このままでは日本の電子産業は壊滅する」と考えた。メーカーが、作るだけでなく廃棄後の処理まで責任を持つべきだとし、ならば最初から有害物質である鉛を使わない、「鉛フリーはんだ」による技術開発を進めるべきだと訴え、その研究に力を注いだ。同時に、資源の有効活用も考えた法律の整備にも携わり、それが家電リサイクル法(2001年施行)に繋がった。「企業には新たな負担になるので、当然反対は多かった。でも、これをきっかけに日本でも、環境問題を身近に捉える人が増えた」と、当時を振り返る。
 菅沼さんが今の道に進んだきっかけは、子どものころに読んだたくさんのSF小説だ。その中に、金属をすべてエネルギーに変換するという設定の物語があった。「これだ!と。日本は資源がないから、この研究しなければと考えた」。その思いから、大学では核融合を学んだ。「でも、詳しくやればやるほど、政府や研究者の言い分の矛盾に気付いてしまう。どうあっても安定化は無理だし、廃棄物の問題は残るのだから」。挫折を味わい、目に止まったのがはんだだった。「融点が低いはんだは、ホットプレート1枚あれば実験ができる」と研究を続けた結果が、鉛フリーはんだにつながった。
 また、新しいはんだ素材の開発が、プリンテッド・エレクトロニクスの研究にも生かされている。丸めたり伸縮しても問題のない電子ペーパーを作り、それをシールのように体に張り付け、体調管理をするシステムを考えている。「高齢化社会で必ず役に立つ技術になる」と、熱く語る。
 「自分が世界を変えたとは思わないけど、開発した素材が色んなところに使われているのをみると、やりがいのある仕事だなとは思います」。私たちも気付かないうちに、菅沼さんの研究にお世話になっているのかもしれない。(礒野健一)

更新日時 2013/10/11


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