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阪大の先生㉘渡部健二さん 未来の医者を育てる

 「内科医の渡部です」。そう自己紹介したのは、大阪大学医学系研究科消化器内科学助教の渡部健二さんだ。「大学病院は、診療、研究、教育という3つの顔がある。私自身にも3つの顔があるが、何者であるかと問われれば、医者だと答えます」と語る。
 高校生のころ、若くしてがんで亡くなった人の話を新聞で読み、「何とかしたい」と医学を志した。東京で生まれ育った渡部さんが、進学先に選んだのは大阪大学。「受験当時、阪大は移植手術など先進的なことを積極的に行う気風があり、面白そうだと思った。入った後もその印象は変わらず、自由な雰囲気は今でも大好きですね」と阪大愛を見せる。
 がんを根絶したいという思いから、当初は研究に力を注いでいた渡部さんの価値観が変わったのは、卒業後に3年間働いた、豊中市立病院での経験だ。「末期のすい臓がんだったおばあさんが、まだ医者になりたての私に、『お願いします、助けて下さい』と祈るように言ってきた。その時に、この仕事は本当に神聖で、誠意を持ってやらねばと痛感した。循環器を担当した時は、救急で運ばれてきた心筋梗塞(こうそく)の患者を診てきた。そこは10人に1人は亡くなるという現場。助けようとつかんだ患者が、砂のように指の間からこぼれていく感覚は、本当に耐え難い。医療は研究も大切だが、患者とともにあるべきだと実感した」
 医学部の教育センターにも籍を置き、学生の指導にも当たっている。「技術はもちろんだが、患者とのコミュニケーション能力も大事。授業では『よく練った言葉を使いなさい。受験マシーンだった君たちに多くは求めないが、患者さんの問題を解決するため、誠意ある言葉と態度を見せなさい』と教える。人としての道を踏み外すなよと」
 教育センターでは、医学教育の改革にも力を入れている。阪大医学部は、3年前に国立大で初めて卒業試験を廃止した。代わりに行っているのが、問診型の試験だ。教授らが患者の立場となって、症状や検査結果を表示し、学生は適切な診断を下していく。「膨大な知識量をペーパーで判断する従来の試験よりも大変かもしれない。しかし、どんな医者になりたいか、なってほしいのかという、到達点を意識した教育カリキュラムを組むことで、より良い医者になってくれるはず。教える側にも、ともすれば自己満足でやっていた授業内容を見直すきっかけになる」と期待する。
 アウトカム基盤型教育という、この方式は、まだ過渡期ではあるが、ガラパゴスと言われる日本の医学界に、確実に新風を入れている。(礒野健一)
=地域密着ウェブ「マチゴト豊中・池田ニュース」第59号(2014年1月16日)

更新日時 2014/01/16


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