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阪大の先生㉚石黒浩さん 人とは何かを知るために

石黒さんの後ろに壁にあるのがテレノイド。「パッと見ると、少し不気味ですね」と言うと、「それは知らないから。人は知らないもの、何かを判断できないものは、不気味と思うもの」と話した

 人間に酷似したロボットのアンドロイド、自分とうり二つの姿をした遠隔操作型ロボットのジェミノイドなどを開発し、人型ロボット研究では世界の先端を走り続けるのが、大阪大学基礎工学研究科システム創成専攻の石黒浩教授だ。
 人型ロボットの研究に携わるようになったきっかけは何なのだろう。「よく聞かれるんだけど」と前置きし、石黒さんは「人とは何か、自分とは何かという疑問を追求していったら、ロボットを作る事に行き着いただけ」と語った。その疑問は、小学5年生ごろに浮かんだものだという。「僕はそこから成長していない。大学に入って道具はたくさん手に入れたけど」と続けた。
 人間の定義は、時代とともに変遷していると話す。「江戸時代あたりまで、障害者は人として扱われなかった。それが社会の変化で、今は両手を失った人が義手をしていても、それは当然人間だと認識する。足でも同じ。では、どこまで人工のものが入った時、人はそれを人でないものと認識する? 人間の定義なんて、それくらいあいまいなもの」という。
逆に言えば、どこまで人に近付けば、それはロボットではないと言えるのだろうか。質問すると、「あなたはどう思いますか?」と返され、「人とロボットの差は、自我の有無」と答えると、「自我って何ですか?」と聞かれた。しばし考えて「今、この質問に悩んでいる自分を自覚していることが、自我でしょうか」と答えると、「では、そう答えるようプログラムを組んだら、そのロボットは自我があると言えるのでしょうか」と返ってきた。さらに「あなたは、自分の姿をどれだけ説明できますか」と質問は続く。言いよどむと、「少なくとも今の様子は、あなた自身よりも、あなたと対面している私の方が的確に説明できます。それはつまり、他人を通して自分を自覚するということ。そうした客観的な考え方は、人特有のもの」と説明した。だからこそ、自分を知るために、自分に似たロボットを作る意義が生まれるという。
 今、力を注いでいるのがテレノイドだ。人として認識できる最小限の外観を備えた遠隔操作型アンドロイドで、電話やメールでは伝えられない、相手の存在感を伝える媒体として注目されている。
 石黒さんは、研究したいテーマが次々にわき出てくるという。「一時期、自殺を思い浮かべるまで考え詰めたことがある。それを超えた時から、アイデアに困ったことはない。論文も一時は月に1本書いていた」と話す。気分転換の方法は、違うことを考えること。「何か考え続けていないと、ストレスになる」という。
 禅問答のようでもあった石黒さんのインタビュー、自分とは何かを考える機会にもなった。(礒野健一)
=地域密着ウェブ「マチゴト豊中・池田ニュース」(2014年3月13日)

更新日時 2014/03/13


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