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阪大の先生⑬本田武司さん 食中毒に警鐘

趣味は家庭菜園だったが、「退官して時間ができたら逆にやらなくなった」と話し、今はイチジク、モモ、サクランボなど果樹を育てている。「菜園より楽。鳥がつまんでいくこともあるけど、それは食物連鎖の中のことだから」と笑う

 2012年7月から、牛生レバーの提供・販売が禁止された。生レバー好きの人も多く、焼き肉屋へ行く度にその賛否を議論する人も少なくないだろう。大阪大学微生物病研究所の本田武司博士は40年以上も食中毒について研究してきて、「殺菌技術が確立されていない今は、まだ食べるのは危険。放射線を使った殺菌が良いと思うが、コストとのバランスで難しいのではないか」と話す。
 本田さんは大阪大学医学部出身で、当初は臨床医を目指していた。しかし、海水中に生息して食中毒を引き起こす腸炎ビブリオ菌を発見した藤野恒三郎・三輪谷俊夫博士の下で学び、食中毒の研究に携わるようになった。腸炎ビブリオ菌は激しい腹痛と下痢を主な症例とし、好塩性で魚介類に付着することが多い。海水温が15度以上になると急激に増殖するため、夏場は特に危険だ。「今は冷凍技術が進歩したからいいが、若いころは藤野先生に『夏場の刺身は食うな』と言われていた」という。
 一般に安全と思われる、真空パック食品にも食中毒の危険はある。1984年には、真空パックされたカラシレンコンによるボツリヌス菌食中毒が起き、11人の犠牲者を出した。「ボツリヌス菌は嫌気性で酸素がないことが生育の条件。死亡率も高く、初期の神経まひ症例は脳こうそくなどと誤診されやすく危険」という。その後は製造過程の安全管理も見直され、国内でこうした発生事例はない。
 自然界にもともと存在する自然毒では、フグによる食中毒が挙げられる。体内に含まれるテトロドトキシンという成分は、約0.5~2ミリグラムが人の致死量といわれ、今も年間十数人が中毒死する。また、キノコによる食中毒も毎年起きている。食用キノコと似た毒キノコを採る事例が多く、本田さんは「昔は親から食べてはいけないものを教えられてきたが、核家族化や地方の過疎化によって、そうした知識が断絶した」と分析する。
 食中毒の原因となる細菌は、日常生活のあらゆるところにいる。「よく『昔の子どもは、少々汚れたものでも食べていた。最近の子は過保護すぎて逆に免疫力が落ちている』と言うが、それは違う。中毒を起こしても死なず、結果的に免疫力を獲得した子が大人になっただけ」と本田さんはいう。
 食中毒は保存や輸送の技術の発達にもかかわらず、発生数は減っていない。本田さんは食材のグローバル化や、便利さゆえに忘れられた食中毒の知識が原因と考え、1995年に著した「食中毒学入門」(大阪大学出版会)に新たなデータを加えて、2012年に改訂版を出した。ちょっとした知識の差が、もしもの時に大きな差となる。「注意して、し過ぎることはない」と本田さんは語る。(礒野健一)

更新日時 2012/10/11


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