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阪大の先生⑨ 髙橋京子さん「漢方薬が危ない」

旧藤沢薬品(現アステラス製薬)の藤澤友吉から博物館に寄贈された生薬標本を見せる髙橋さん。趣味は仏像巡りだが、最近は忙しくほとんど行っていないと話

 大阪大学総合学術博物館准教授の髙橋京子さんが2012年3月に出した本は、「森野旧薬園と松山本草 薬草のタイムカプセル」(大阪大学出版会)という。1729年に、幕府の薬草改革の一端を担う形で作られた森野旧薬園(奈良県宇陀市)に今も栽培されている薬草と、当時の森野家当主が江戸時代に描いた精密な植物画「松山本草」を紹介する本だ。美しい図画の数々も素晴らしいが、これからの日本の漢方にとっても非常に大切な資料になるという。

 現在、日本で使われる漢方薬のもととなる生薬(しょうやく)は、その9割を外国からの輸入に依存し、中国からは8割を超える。しかし、漢方が西洋世界でも認められ始め、その需要が増す中で、中国は輸出規制を強めつつあり、原価は値上がりする一方だ。

 漢方は名前の通り中国から伝わったものだが、今の中国は「中医学」で漢方とは別物だ。生薬の使い方も異なり、中国は世界基準を自国に合わせるよう、世界保健機関(WHO)に働きかけているとう。また、中国の生薬は大量生産される一方で、残留農薬などの問題も指摘されている。髙橋さんは「日本は生薬資源が少ないため、少量でも効果が高くなる栽培法や、加工法を独自に発展させてきた。その分コストも高くなるが、本当に良い薬を作るためには、国内生産はとても重要だ」と話す。

 「薬草の栽培は、半自然、半栽培という、人が最低限入っていく“里山”の環境が必要」と話す。現在の森野旧薬園もその状態に保たれており、松山本草とともに研究することで、栽培のノウハウを次世代へと引き継いでいかなければならないと強調する。

 富山大学で薬学を学んだ髙橋さんは、「4年間、雪がなければ日曜は採集。スキーに1度も行けなかった」という。卒業後は心筋細胞の培養を研究した。学位論文執筆中は妊娠しており、つわりと戦いながら書き上げた。「だから学位は息子と一緒に取ったようなもの。発表も大きなお腹で行きましたが、当時は風当たりがきつかったですね」と笑う。

 学生には「長い目で見たら何が役立つかわからない。だから何事も一生懸命やってほしい」と期待を込める。(礒野健一)

更新日時 2012/06/14


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