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阪大の先生⑲杉田米行さん 当たり前を疑え

「英語が好きで好きで仕方ないので、仕事をしているという気がしない。言ってみれば、お酒好きな人が1日中お酒を飲んでいて、給料をもらってるみたいなもの」と屈託ない杉田さん

 大阪大学言語文化研究科の杉田米行教授の専門は、アメリカ外交史と社会保障制度だ。「アメリカを研究している僕の名前が『米行』なんて、でき過ぎでしょう。でも、本名なんですよ」と、自己紹介からアメリカンジョークが飛び出し、今回のインタビューは始まった。

 杉田さんは子どものころ、勉強はからきしだったという。「中学に上がって、これではダメだと思ったんですが、今さら追い付けない。でも、英語だけは皆が中学からスタートなので、なんとかなるのでは」と考え、1点集中で勉強した。

 担当した英語教師が、耳で聴くことの大切さを教えたことが、もともと人と話すのが好きな杉田さんの英語力を飛躍させた。生の英語を話したいと、当時は国際空港だった大阪空港に行き、外国人を見つけて話しかけた。高校に進学すると、外国人観光客が多い大阪城に通った。「怪しいものじゃないです。英語の勉強をしたいんですと言って、無料の英語ガイドをしてました」。ちなみに初めて話しかけた人は、イタリア人だったという。

 さらに英語力を磨くため、大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)に進学し、1回生の時から「単位はいらないので入れてくれ」と、4回生のゼミに参加した。就職は同時通訳者を目指したが、「何か専門分野に強くなって付加価値を付けよう」とアメリカ外交史を専攻。そのまま大学院へ進み、博士論文はそれで書いたが、「同じことをやり続けるより、違う分野を研究したい」と、日本の社会保障史にテーマを変える。

 しかし、全く違うものと思っていた2つが、実は密接に関係していた。「戦後日本の社会保障制度は、日米安保問題に大きく関わっている。イデオロギー的対立は、当時の与野党間で解消できなかったが、経済成長を遂げる日本の恩恵を、どう国民に還元するかという点で、安保容認と国民皆保険、皆年金制度の施行が、交換条件のように成立した」という。

 杉田さんは学生に、「当たり前と提示されていることを疑え」と教える。OECD(経済協力開発機構)の中で、日本の医療費は最低ランクに抑えられているというが、果たしてそれが良い制度のあかしとなり得るのか。

 「もともと高いアメリカなんかと比べている。意味がない数字」と杉田さんは切り捨てる。国民皆保険制度についても、「本当に公平で公正か?」と疑問を投げかける。「保険料をかけていない人も、同等の医療を受けられるというのは社会福祉。そうであるならば、その対象にはきちんとした資産チェックが必要になるが、今はそれができていない。生活保護の問題も含めて、フェアネスがなければ、いい社会にはならない」。杉田さんの話し方は、実にはっきりしている。(礒野健一)

更新日時 2013/04/12


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