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阪大の先生⑮桃木至朗さん 東南アジア史研究

阪急ブレーブス全盛期を記した本を持つ桃木さん。「鉄ちゃんでもあるんです。鉄道経営に興味があり、学生時代は時刻表早回りなんかもやったなあ」

 大阪大学の桃木至朗教授は、ベトナムを中心に東南アジア史を研究する。「学生時代にベトナム戦争があったのがきっかけだけど、人がやらないマイナーなところをやりたかった。ひねくれてるんですよ」と屈託がない。
 大学では一般教養科目の世界史も担当するが、そこには学生の世界史レベルの低さを憂う気持ちがある。「世界史は受験科目の中でも軽視されがちな科目で、さらに東南アジア史となると、詳しく学ぶことはほとんどない。しかし今の日本を考えれば、その地域の歴史を学ぶ意義は大きい」と話す。
今の高校世界史は、近現代史を中心に大まかな基礎知識を教える世界史Aと、通史的な教え方をする世界史Bがあり、ほとんどの生徒はAだけを学ぶ。世界史を受験科目とする生徒はAに引き続いてBを学ぶが、その内容の接続がうまくできていないのが現状だ。桃木さんは「高校のカリキュラムも悪いが、結局暗記中心の勉強法を取らせてしまう試験問題を作る大学側にも問題がある」と考え、入学後に補完する形で学生に世界史を教えている。
 桃木さんは、大のプロ野球ファンでもある。「ひねくれ者」を自称するだけに、「不人気時代からのパ・リーグファン」と胸を張る。阪神もそんなに好きではないと言うが、巨人は大嫌い。「巨人ファンを公言する者には単位をやらん」と言うこともあったという。全盛期の阪急ブレーブスが大好きで、福本豊、星野伸之らが特に好きだった。「1970年代に活躍した選手に、大橋穣(ゆたか)というのがいてね。昔はオールスターで遠投競争があったんだけど、山本浩二といい勝負をしてた。肩が強い遊撃手で、あのころの阪急は本当に守備がよくて…」と、話し出すと止まらない。
 今は忙しくなって球場へ行くことは減ったが、それでも年に数回はパ・リーグの試合を観戦する。
 桃木さんは阪大生を、「ドラフトで人気球団に行けなかった選手みたいなもの」と例える。「東大、京大に行けなかったというコンプレックスを持つ学生が多いが、彼らを猛特訓して社会に送り出すシステムがある」という。「日本はあらゆる国や地域の歴史専門家が、高いレベルでそろう国で、それは世界にも誇れる。職人気質的な国民性で、1つの物事を深く探求する人が多いからだろう。しかしその反面で発信力に乏しく、特に国際標準に弱いため、せっかくの研究成果を英語や現地語で表現できないのがもったいない」と話し、だからこそ幅広い知識と発進力を持つ人材の育成に励んでいる。
 「アクが強いけど、面白いやつ。それが阪大生だと思う」。マイナー選手を叩き上げてメジャーリーガーにする、鬼コーチの横顔を垣間見た。(礒野健一)

更新日時 2012/12/13


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