阪大の先生⑫玉井誠一郎さん 知財意識を高めよ
「知的財産権(知財)は基本的人権と並ぶ、もっとも大切な権利である」。そう力を込めるのは、大阪大学産業科学研究協会の玉井誠一郎専務理事だ。「アメリカでは合衆国憲法に知財保護を記しているが、日本は知財に対する意識がほとんどない」と話す。
玉井さんは大阪大学工学部を卒業後、大手電機メーカーに就職し、溶接ロボットやバーコード読み取り機など、さまざまな商品の研究開発に携わった。ある商品では、ライバル会社との特許侵害トラブルも発生した。「相手方の弁理士とやりあって、こちらの主張は通したが、アメリカでは金を払うこととなった。日本の特許や知財の甘さを実感させられた」という。
「日本企業の知財担当部署は、そのほとんどが特許を出願し、取得できたら仕事が完了したとする事務仕事。特許をいかに守り、あるいは利用して利益をあげていくかは考えていない」と嘆く。また、弁理士や特許局の現状も批判する。「弁理士は法律の専門家であっても技術に関しては素人。そんな人に特許申請を丸投げすれば、穴だらけのものになる。特許局は特許法に基づいてそれを認可するが、後で裁判の結果によって、同じ特許法に基づいて無効にもする。矛盾しているようだが、そういうことは珍しくないし、弁理士も特許局も、その責任を取らない」。そんな現状が日本の技術流出を助長し、競争力の低下を招いたと断じる。
日本も小泉純一郎政権の時から「知財立国」を掲げて、法律を整備するなどしているが、まだ意識は高まっていない。「学生のうちから知財について勉強し、権利意識を強く持たないと、日本は外国に隷属させられる。特に大阪大学は『実学の阪大』なのだから、大学特許も論文を書いておしまいではなく、しっかり利用することを考えないといけない」と強調する。
玉井さんは知財ブランド協会を設立し、さまざまな場所で知財の啓蒙を続けている。「プロスポーツ選手が何億という年俸をもらっているが、そこまではいかずとも、技術者へのインセンティブはもっと上げないと、人材の流出も止まらない。正当な知財利益があれば、それも可能になる」。技術者だからこそ、現状に歯がゆさを覚える玉井さんの言葉は激しく、そして重い。(礒野健一)
更新日時 2012/09/12