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阪大の先生⑧中岡成文さん 現場にある哲学

1987年の阪大着任以来、池田市、豊中市に住み、今は石橋在住。石橋商店街は帰り道で、行きつけの店も何軒かある。商店街と学生が連携する活動は「これからが楽しみ」

 「臨床哲学」というものを知っているだろうか。現実社会の具体的場面で生じている問題を治療という観点から、医者ではなく患者の立場に立って考えていこうとする哲学的活動だと説明されている。この活動を1990年代後半から、大阪大学前総長の鷲田(わしだ)清一さんらとともに引っ張っているのが、文学研究科の中岡成文教授だ。
 京都大学で学生生活を送っていた時期は大学紛争のさなか。政治に翻弄(ほんろう)される時代でもあり、「哲学は無力ではないか」と考えることもあった。それは哲学が、業界内で話をしているだけの象牙の塔だったからかもしれない。「哲学をよく知らない人からの素朴な疑問が、的を射ていることも多い。哲学者は整理された言葉を好むが、そうした専門的な言葉を外から持ち込むのではなく、雑多な中に身を置き、一緒に参加して疑問を聞くことが大切だと感じた」。こうした考えが臨床哲学へとつながっていく。
 大阪大学コミュニケーションデザインセンターが主催するラボカフェにも、マスターとして参加している。京阪なにわ橋駅コンコースのアートエリアB1で開催されるラボカフェは、哲学を担当する中岡さん以外に、さまざまな分野の阪大の先生がマスターとなって、世の中の問題について一般の人たちと議論する。「通りすがりの人がやって来るので、先が読めない。それが現場であり、面白い部分」
 これまでは利害対立がないものをテーマとすることが多かったが、今後は原発問題なども取り上げたいと話す。「議論を収拾させるのは難しいかもしれないが、避けていくのも自然ではない。対立意見をぶつけ合い、互いが考え方の多様性を受け入れるようになればいい。僕が山口の岩国出身なので、米軍基地問題もやりたい」と意欲を見せる。
 趣味は読書だが、「哲学書を読むか書くかする以外は、漫画ばかり読んでいる」というほど漫画好き。「(少年)サンデーや(少年)マガジンは創刊時から」というから筋金入りだ。最近の作品では「人物描写にリアリティーがある」と、宮下英樹の「センゴク」を薦める。ほかには、あだち充の作品や、森川ジョージの「はじめの一歩」などを好きな作品に挙げ、「漫画に思想はいらない。単純に楽しめるものがいい」と笑った。(礒野健一)

鷲田清一 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 石橋×阪大

更新日時 2012/05/09


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