北摂麺大使⑦ 伊丹市・大前田
今回は石橋駅から自転車で20分かけ、伊丹市の昆陽池(こやいけ)公園近くにある大前田へ行ってきた。
店主の前田英之さんは、もとはオリジナルTシャツの製作が仕事で、営業でラーメン屋と話す機会があった。そうして出会った豊中の人気店「麺哲(めんてつ)」の庄司忠臣さんから「店に来たら色々教えてやるよ」と言われアルバイトに入り、基本を叩き込まれた。「40を過ぎてからの挑戦。でも完全な縦社会やからね。20も年下の先輩に怒鳴られながら覚えたよ。今、仕込みからしっかりできるのは、そのおかげ」と笑う。
約2年前に独立した際、庄司さんから出された条件は「Tシャツの仕事は続けろ」だった。「ラーメン屋を始めるんだから『中途半端なことはするな!』と言われるって思ったんやけど、『これまでの仕事の付き合いは大事にせなアカン』ってね。大きい人や」と心酔する。
店の売りはカウンターから見える焼き台だ。そこでトッピングのアシアカエビや牛ハツなどを焼く。店を包む香ばしさに、思わず追加注文をしたくなる。大きなアシアカエビが3尾も入った人気メニュー「脚赤海老塩つけ麺」は1200円と、ラーメンとしては高い値段だが、パキョッという音がする程に弾力あるアシアカエビと、それに合わせた塩スープを食べれば、むしろ安いと思ってしまう。「3尾あったら、一緒に来て他のメニューを食べている友だちにも、1尾くらい分けてあげられるでしょ」と前田さん。そうしてラーメンの話で盛り上がってもらえるのが、なによりうれしいのだ。
貼り紙も出してない限定メニューもある。僕は友人からその名前を聞いていたので、「あるんですか?」と尋ねると、「よっしゃ! 今日はまだあるで」と作ってくれた。師匠の店でかつて出していた幻のメニュー「MK(麺哲こってり)」だ。極上の鶏パイタンスープが黄金色に輝き、一口飲んであまりのうまさに無言になる。「スープを取れる鶏の在庫が残り少ないから、いつまで出せるかわからん。だから知っている人だけに食べてもらおうと。もちろん初めてのお客さんが頼んでもいいけど、最初はレギュラーメニューから味わってほしいしね」と笑った。
「今は麺哲で修行している娘に、しばらくしたら店を任せるつもり」と引退宣言をするが、取材時にラーメン話を2時間半語った情熱は、そう簡単には冷めそうもない。(礒野健一)
【大前田】兵庫県伊丹市瑞ヶ丘1-19▽11時半~14時ごろ、18時~22時半ごろ▽木曜定休▽072-786-6428
更新日時 2012/05/09