阪大の先生⑦ばん澤歩さん ドイツを知り、学ぼう
勤勉実直で職人気質、ちょっと気難しくてビール好き。ドイツ人のイメージはこんなところだろうか。大阪大学大学院経済学研究科でドイツ経済や現代史を研究するばん澤歩教授は「ドイツ人でも時間を守らない人はいるし、人それぞれ」と話す。「でも、ドイツ人が他国の人たちと一緒にいると、そんな性質が見えてくることもある」
ばん澤さんは高校生のころ、トーマス・マンなどドイツ文学に興味を持ち、阪大に進学後「ドイツ文化研究会」というサークルに所属した。当時は「ドイツに駐在する仕事をしたい」という程度の思いだったが、大学院に進んだ年にベルリンの壁が崩壊。「行くしかない」と親に借金をして約2カ月滞在した。「ちょうど東ドイツで統一の是非を問う、最初で最後の総選挙が行われていた。今思えば、すごい瞬間に立ち会っていた」と振り返る。
ドイツと日本は共に第二次世界大戦の敗戦国、その後に奇跡的な復興を遂げて経済大国となったという共通項を持つ。技術立国でもあり、エネルギー政策でも、原子力発電に比重を置いていたという点は同じだ。しかし、戦後補償問題や、脱原発への動きは日本との違いが大きい。ばん澤さんは「日本人は大きな問題でも『水に流そう』という言葉で、良く言えば前向きに立ち止まらず進む。しかしそれは悪く言えば無責任とも言える」と指摘する。「福島原発の事故は、ドイツでも大きく、時にヒステリックに取り上げられた。そして日本政府や東京電力の、よくわからない対応と説明に、市民が大々的な反発行動を取らないことに首をかしげ、『日本は不思議の国』というイメージが付いたように思う」。ばん澤さん自身、ドイツの友人に説明しづらいという。
高い失業率や移民問題など、これから日本が抱えるだろう問題に、ドイツは悩んでいる。「日本はアメリカや中国に目を向けたがるが、そこは国土や人口、資源も豊富な国。それよりも似た境遇のドイツから学ぶことは多いはず」と強調する。
2011年秋にばん澤さんが編著した「ドイツ現代史探訪」(大阪大学出版会)は、ドイツの今を知る1冊だ。「若い人にも手にとってほしい」と、表紙は漫画家の有馬啓太郎さんに依頼した。「かわいいけど、どこか抜けたファッションのドイツ少女が妙にリアルで気に入っている」というばん澤さんは、実は大のSF、漫画好きでもある。約2時間のインタビュー取材のうち、後半1時間は漫画談義になったほど熱く語ってもらったが、それはまた別の機会に紹介したい。(礒野健一)
更新日時 2012/04/12