阪大の先生④石蔵文信さん 妻の体調不良は夫のせい?
1月25日に住吉区民センターで行われた講演会で話す石蔵さん。「夫が定年後すぐにポックリ逝った女性は、みんな元気。ストレスはない、遺産は残る、周りは同情してくれると、いいことづくめ」と話すと、会場から笑い声が上がった
女性の更年期障害の主因は夫にあると書いた本「夫源病(ふげんびょう)」が、発売以来注目を集めている。著者は大阪大学大学院医学系研究科の石蔵文信さん。男性更年期外来として約10年、600人の相談に応じてきた石蔵さんが、「夫の言葉や態度がストレスとなり、女性の更年期障害を誘発、悪化させている」と考えた。
医学的には、更年期障害はホルモンバランスの崩れが原因だ。女性の場合、閉経前後に女性ホルモンが急激に減少することで起きるが、その症状や期間には個人差がある。男性にも更年期障害はあるものの、大抵は自覚症状がないまま終わり、女性ほど深刻に捉えることは少ない。そのため、妻が更年期障害によって体調不良を訴えても、「放っておけばそのうち治る」と軽く流し、ぞんざいな言葉や態度になってしまう。それがストレスとなって症状を悪化、期間の長期化につながるというのだ。
「そんなことはない。定年まで仕事一筋でやってきた分、今は妻をいたわりながら、ずっと一緒に過ごしている、近所でも評判のおしどり夫婦だ」という男性もいるだろうが、それは夫の独りよがりだ。1つ屋根の下、何十年か結婚生活をしていたとしても、男性に職場という環境があったのと同じく、女性にも近所づきあいや趣味の仲間という個別の環境が生まれている。「『亭主元気で留守がいい』というのは、妻にとって理想の環境。せっかくできたその環境に、定年を迎えた夫が入り込むのはストレスでしかない」。仕事一筋だった夫ほど、それ以外の友人がいないため、定年後はやたら妻につきまとい、過干渉する傾向にあるという。
「男と女は生物としてまったく違うものだと理解することが大切」と石蔵さんは話す。「女性ホルモンのエストロゲンは、体や心を守る働きがある。それがなければ出産と育児という、多大なストレスが生じる営みは乗り越えられないだろう。逆に言えば、それがない男性に育児は不向き。だから最近のイクメン礼賛も良いとは思えない。否定することもないが、『それができない男はだめだ』という風潮がストレスとなって、かえってDVなどにつながることもある」という。
ストレスこそが万病の元という考えから、健康ブームにも疑問を投げかける。「70歳を過ぎた人が禁煙禁酒、食事も塩分控えめで質素なものに制限、適度な運動をして早寝早起き。長生きをしたいからと健康に気を使って、それで人生楽しいのかな。人に迷惑をかけないのなら、好きにするのが結局一番健康的」と笑った。(礒野健一)
更新日時 2012/02/01