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十割にかけた30年 そば紀行

 指の感覚で水回しをして、厚さ1ミリの幅に延ばしていく。そばがきれいな長方形にのびて、角が割れないのがいい。そばの切り口は1ミリ角の正方形。そんなそばが出来た時、今日1日がええなあと思う――。店主の中川さん(62)は言う。しかし、「最近は腰痛が悪化し、これまで普通に出来ていたことが出来なくなってきた」と、少し寂しそうだ。
 中川さんは、34歳の時、手打ちそばの店を開業した。わずかな期間、兵庫県豊岡市出石町で修業したが、ほとんどが独学だ。「十割を機械に負けないぐらい細く、長く、薄く切りたい」と試行錯誤を繰り返した。つなぎを使わない十割そばは短く切れてしまうのが当たり前、と言われる世界で、「新鮮なそば粉と水回しによっては、つながる」と約30年間、十割そばにこだわり続けた。
 約10年前、大阪市北区の北新地から現在の閑静な住宅街に店舗を変えた。高級一戸建て住宅を改装した店舗は、「ぼちぼちと、目立たぬようにひっそりとそばを打ちたい」という中川さんの希望通りの場所だ。
 中川さんがもっとも重視する材料は、新鮮さにこだわって選んだ福井県丸岡産のそばで、厨房の奥に備え付けた石臼で挽いて使う。加えるのは水だけ。10秒でゆで上げたそばは、客が口に入れる時間との勝負になる。十割であるがゆえに、粘りは強いがコシがないのだ。中川さんの願いは「出したらすぐに食べてほしい」。
 夏季メニューは冷たいそばのみ。十割そば(1000円)は、そばの皮ごと挽いた香り高い「挽きぐるみ」と、そばの皮を取り除いたのどごしのよい「丸抜き」の2種類。辛味大根そば(1000円)、そばがき(1000円)もある。
 「名を名乗らない、顔も見せたくない」とかたくなに話す中川さんは、本気でそば職人になりたい若者を探している。
 (進藤郁美)

 【そば紀行】豊中市上野東3-10-26▽11時半~14時、17時~20時▽火曜と第2、第4月曜休▽電話06-6857-2090
=地域密着新マチゴト豊中・池田」第1号(2010年7月29日)

そば紀行 豊中市上野東3-10-26

更新日時 2010/07/27


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