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心にしみる一言(268) かかわりがなければ、1億人がいても、枯れ葉1つ落としてくれない

コンサートの時の塔さん(右)

◇一言◇
 かかわりがなければ、1億人がいても、枯れ葉1つ落としてくれない

◇本文◇
 詩人、塔和子さんに関する思い出を書いてみる。元ハンセン病の患者だが、恋の詩が印象に残る人だった。
 塔さんをテーマにした映画に「風の舞」がある。監督は宮崎信恵さんで、音楽は十河陽一さんが担当した。十河さんは取材で知り合った。十河さんの住む大阪府高槻市で自主上映会が開かれた時、誘われて見に行った。
 風の舞は、香川県のハンセン病療養所「大島青松園」の共同墓の名前。映画は元患者が虐げられた中でも、豊かな精神を失わなかったことを描いている。その象徴が、塔さんの詩だった。
 上映前の宮崎さんのあいさつは「法律(ハンセン病患者を隔離したらい予防法)で人の体を縛っても、心までは縛れない。魂はおおらかである。どんな状況の中でも、人が生きていることはとても重いんだ、の思いでつくった」と話した。
 映画の中で、塔さんは寝転び、足をバタバタさせながら詩を書いていた。これが詩人・塔さんの実像といえる。
 むう1つの実像--。大島青松園は高松港から厚生労働省の船で行く。島には療養所の元患者と職員しか生活していない。十河さんが初めて大島青松園を訪れた時、桟橋に腰をかけて、船から下りる男性1人ひとりに『十河さんですか』と声をかけている女性がいた」。塔さんだった。
 映画の中では、「かかわりがなければ、1億人がいても、枯れ葉1つ落としてくれない」という、人とのかかわりの詩がある。そういえば、私と塔さんは、ごく薄い付き合いではあったが、塔さんが亡くなるまで、毎年年賀状が届いた。
 高槻での映画の後、宮崎監督らのメンバーで打ち上げあり、私も参加した。映画の音楽の1曲目で、宮崎さん、十河さんが対立した話が出た。宮崎さんが「もっと人間的に」と言ったのに対し、十河さんは「いいんです」と言って譲らず、その理由に「塔さんは人間ではない」と言った。何と言うかと思っていたら、「仏だ」と言ったとか。
 映画上映は、わずかに黒字となった。そのお金を使い、十河さんらが大島青松園でコンサートを開いた。私も同行させてもらった。塔さん作詞、十河さん作曲の歌の演奏では、塔さんは畳に両ひじをついて、顔を手に載せて聞き入っていた。映画の「足をバタバタ」を思い出した。(梶川伸)2020.10.30

更新日時 2020/10/30


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