心にしみる一言(266) 優しい言葉をかけると、桜は聞いている
◇一言◇
優しい言葉をかけると、桜は聞いている
◇本文◇
京都市・大原野の十輪寺は、「なりひり寺」とっも呼ばれる。在原業平が晩年、隠棲したからだ。
訪ねたのは2003年のことだった。翌日が業平忌で、その準備に忙しかったのだろうが、寺の女性が丁寧に説明してくれたのを覚えている。
パソコンに残っている当時のメモを見た。寺の様子を、次のように記していた。
渡り廊下が屋形船のような雰囲気。渡り廊下と茶室にはさまれて、小さな庭がある。コケのはえた風情のある庭。寺の女性は「横になって見てもいい」と言った。
親しみのある言葉に従って、ちょっと横になった。庭の奥に行くに従がって、高くなっているのがわかる。それを見せたかったのだろう。
樹齢150年の桜があった。前年から樹医を入れていた。年によって、咲き具合がわからないので、PRしないそうだ。
その話に続いて。取り上げた言葉となった。「『また来るね』のような、優しい言葉をかけると、桜は聞いている」と。
「阪神大震災の時は、上半分だけが咲いた」。そのことに意味があったのか、なぜ半分だったのは分からない。しかし、寺の女性は、桜が悲しみに反応したと見たのだろう。
本堂の裏の小山に、塩釜が再現されていた。業平が大阪から海水を運ばせ、塩を作るために煮る遊びをした。藤原高子が大原野神社を訪れた時、塩釜をたいて自分の存在を伝えた。そんな逸話が残っているという。(梶川伸)2020.10.19
更新日時 2020/10/19