心にしみる一言(237) 上から7番目までゆるを抜いた
◇一言◇
上から7番目までのゆるを抜いた。
◇本文◇
高松市に赴任したのは1996年4月だった。1年5カ月生活して、香川の良いところベスト5を、私なりに決めた。①天気のいい日が多い②海がすぐ近くにある③うどんを食べれば、都道府県庁所在地で1番安い昼ご飯に違いない④讃岐平野の山はみんなおにぎり山で、日本昔話の世界⑤高松の市街地は狭いので、自転車で移動できる――だった。
赴任早々知り合った人に勧められて、6月13日に満濃池の「ゆる抜き」を見に行った。満濃池は日本最大の池と位置付けられている。また、空海が修復工事の指揮をとったことでも知られる。
香川県は大きな川がなく、昔から水の確保は大きな課題だった。満濃池は農業用のため池で、ゆる抜きは池の水を放流することだった。「ゆる」とは「栓」の意味らしい。ゆる抜きは現在は、観光や写真撮影の対象にもなっている。
時間が来ると、排水口から水が流れ出す。堤防下の30メートルほど離れた場所で見物した。最初はちょろちょろと水が流れ出る。少しずつ水量が増していく。水が泡立ち始め、排水口の下の池へと落ちていく。やがて、滝のような迫力。
排水口につながる排水管を開閉するための塔が池の中にある。そこも見学できた。説明によると、水面下に排水管が上下8列並んでいるという。見学に行った日は、そのうちの上2つのゆるを抜いて(栓を開いて)放流した。毎秒5トンだとか。
説明の中で聞いたのが、取り上げた言葉だった。1994年の渇水の時には、上から7番目の管まで栓を開けたそうだ。
実は香川は雨も少ない。1973年の渇水の際には、「高松砂漠」という言葉も生まれた。94年の時は、その再来と称された。私が赴任した前年も、都道府県庁所在地では、1番日照時間が長かった。私が香川の良い点の①の挙げたのは、渇水の裏返しの側面も持っていた。(梶川伸)2020.06.02
更新日時 2020/06/02