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寺の花ものがたり(238) 禅師峰寺(高知県南国市)紫陽花=6月中旬

2012年6月16日撮影

 遍路と花を組み合わせた旅を企画して実施したことがある。ほぼ毎月のペースで、1泊2日ずつ17回に分けて巡拝した。霊場の花だけではなく、コースに近い花の名所も訪ねた。
 計画は随分先に立てて、参加者を募集する。しかし自然は気まぐれで、花の咲く時期が年によって変わる。開花時期を調べているのだが、なかなか合致しない難しい遍路旅だった。
 2012年の紫陽花(あじさい)の時期に、高知市周辺の札所に参拝した。紫陽花は案外、開花時期が長いで、あまり心配はしていなかった。まず訪ねた香南市野市の紫陽花街道は満開だった。
 上井川に沿って約1キロ、紫陽花が植えてある。その植えた人に運よく出会った。その人は横田博さんで、当時64歳だった。もともとは草ぼうぼうの場所だった。不法投棄も多かった。心を痛めた横田さんが考えたのは、紫陽花を植えることだった。最初の年、雑草を引いて、挿し木で約20株を植えた。それから次々と増やしていき、訪ねた時は19年目。1万9000株を数え、川のほとりをぎっしりと埋めていた。
 実は横田さんより2年早く、別の方から紫陽花を植えてきている人がいた。横田さんがそのことに気づいたのは植樹を始めて4年ほどたった時だった。2人の紫陽花は間を縮めてゆき、やがてドッキングした。紫陽花街道として形を整えてきたのは、10年目くらいだったという。良い話を聞いた。
 気分を良くして遍路を進めた。ところが期待していた高知市の34番・種間寺の紫陽花はほぼ終わり。近くの紫陽花の長い道も同様だった。
 そんな中で、32番・禅師峰寺は良い時期だったので、企画者としては何とか面目が立った。本堂は60メートルほどの小山にあり、境内に登る石段に紫陽花はあった。株は多くはないが、風情がある。
 寺の境内には、黒と灰色の岩の層が露出している。紫陽花はその岩を背景にしている。岩の色が濃いので、花は引き立てられる。石仏の周りにも植えてあり、まるで花の衣を着ているようだった。参拝の時は小雨が降っていて、それも紫陽花にはふさわしかった。

◇禅師峰寺(ぜんじぶじ)◇
 高知県南国市十市3084。後免駅からバスで30分 。088-865-8430。行基が聖武天皇(在位724~49)の勅命で堂宇を建てたのが起源とされる。四国霊場32番札所。本尊は十一面観音。境内自由。
(梶川伸)=状況が変わっていることもありますので、ご了承ください。2020.05.18

更新日時 2020/05/18


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