寺の花ものがたり(291) 室生寺(奈良県宇陀市)紅葉=11月中旬~下旬
1998年9月22日、台風7号のために、室生寺の五重塔に杉の大木がたおれかかり、塔の一部が変われてしまった。その被害状況を見ようと、10月30日に室生寺を訪ねた。その時のメモが残っている。
「五重塔は3方をテントで被われていた。テントのすき間から見ると、下から1層目のひわだ屋根は何とか持ちこたえていたが、2層目の屋根はぐにゃりと曲がり、3層目、4層目は角の部分がえぐり取られていた。5層目は見えない。塔は小さく、彩色がきれいなので、まるで少女のような優しさがある。それなのに、無残な姿をさらし、いたいけな感じがする。杉の大きさには驚いた。直径が1メートルもありそうな木が何本も倒れている。木の大きさの割に、根を張っていないのはなぜだろう。塔のそばに、ハナズオウの木があり、紫の小さな花が返り咲いていた。五重塔の復興を、この花に託したい気持ちだった。屋根の上に、小さな植物の芽も出ていた。これも、復興への希望を与えるものだった。」
それから24年ぶりに、室生寺を参拝した。今回は紅葉が目当てだった。ちょうどピークだったのではないか。
寺は室生川のほとりにある。川を渡って寺の入り口に向かうと、モミジの木が川沿いに続き、赤く染まっている。山門のあたりが特に木も多く、門の周りを額縁のように飾る。
そこから石段を登って行く。石段も年を経て美しい。金堂は紅葉を背景にして見えてくる。さらに登って行くと本堂。ここはモミジ赤に、銀杏(いちょう)の黄色が加わる。
最後の五重塔にたどり着く。この辺りには、モミジの木も銀杏の木もない。塔の朱が紅葉の代わりに、緑の中の彩りとなっていた。
◇室生寺(むろうじ)◇
奈良県宇陀市室生78。近鉄大阪線室生口大野から室生龍穴神社行バスで約15分、室生寺下車。0745-93-2003。白鳳9(680)年、天武天皇の勅令で役小角(えんのおずぬ)が初めて経てたと伝えられる。本尊は如意観音。入山有料。
(梶川伸=状況が変わっていることもありますので、ご了承ください。2022.11.19
更新日時 2022/11/18