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心にしみる一言(233) (赤飯は)見つからんよう、早くしまいなさい

神峯寺

◇一言◇
 (赤飯は)見つからんよう、早くしまいなさい

◇本文◇
 四国には「お接待」という風習・文化・伝統がある。お遍路さんをもてなすことだ。私も遍路をしていて、何度もお接待を受けた。ここで紹介するのは自転車で巡拝した際、高知県安芸郡安田町、27番神峯寺(こうのみねじ)に参る時のこと。
 寺は標高450メートルの場所にある。登りに備えて、自転車の点検をしていると、地元のおばあさんさんに声をかけられた。
 息子さんが大阪府警にいたこともあって、よくしゃべった。寺の方を指さして、「私ら、戦争中によう登ったきに」。聞けば、塔の下あたりを開墾して、野菜を作っていたらしい。
 水筒に入れる水を忘れたことに気づき、水のくめる場所を聞いた。すると、おばあさんは約300メートル離れた自宅に案内した。「うちの水はおいしいきに」と、井戸水を水筒に入れてくれた。
 そして赤飯を持っていけという。近所で祝いごとがあり、もらったばかりだった。パックに入っていて、紙で包んであった。「見つからんよう、早くしまいなさい」と、おばあさん。道順を教えてもらと、祝い事の流れの人だかりの前を通っていく。いただき物をすぐ他人に渡したことが見つかる音、それはバツが悪いだろう。
  坂は急で、最後は自転車を置いて、歩いて登った。参拝の後、赤飯を食べた。パックにぎっしり詰め込んである。はしがなかったので、フェルトペンで食べた。3分の1ほどは残して、バッグに入れた。やや食べ過ぎで、走っている最中に、胸焼けがするほどだった。
 赤飯も水も、確かにおいしかった。しかし、おいしかった本当の理由は、おばあさんの気持ちだったのだと思う。(梶川伸)2020.05.08

更新日時 2020/05/09


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