心にしみる一言(230) 山に向かって手を合わせて、「いつもありがとう」と言えば、心経を唱えることにも匹敵する。
◇一言◇
山に向かって手を合わせて、「いつもありがとう」と言えば、(般若)心経を唱えることにも匹敵する。
◇本文◇
大峯山は、修験道(しゅげんどう)の聖地、山上ケ岳(奈良県天川村)を中心とした山々の総称である。「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に指定された折、天川村洞川(どろがわ)から山上ケ岳の大峯山寺に登り、取材したしことがある。出会った人に聞いたいくつもの言葉が印象に残っている。
その際に天川村役場に聞いたところによると、5月3日の戸開きから9月23日の戸閉めの間に、毎年8万5000人ほどが登る。夏の山は、「ようお参り」の声が響き、山伏の白い衣が行き交う。
1人で大峯山寺を目指すと雨が激しくなり、やがて雷まで鳴り始めた。怖くなって思わず、修験者が唱える掛け念仏「懴悔懴悔(さんげさんげ)六根清浄(ろっこんしょうじょう)」を口にしていた。
白装束、地下足袋、ほら貝の山伏姿の男性に出会い、話を聞いた。「山に伏し、野に伏して修行するので、山伏と言う」そうだ。大峯に登って、もう15、6年になると話し、「登ること自体が修行」と語った。
腹痛薬・陀羅尼助(だらにすけ)の出店が並ぶ茶屋があった。店番の人は「今は登るのは年寄りばかり。それも、だんだん減ってきた。若い人は敬遠する」となげいていた。 大峯山寺は1700メートルの高さにある。寺には専従の僧侶がいるわけではない。5つの寺が護持している。住職も交代制をとる。その年は、洞川の龍泉寺の住職が、その役を務めていた。住職は山岳信仰から生まれた修験道を語った。
「山の恵みに感謝する。雨や雪が水になり、きれな空気も我々に与えてくれる。だから、山に出向いてお礼をする。お経なんか唱えなくても、手を合わせて、『いつもありがとう』と言えば、心経を唱えることにも匹敵する」(梶川伸)2020.04.17
更新日時 2020/04/17