このエントリーをはてなブックマークに追加

心にしみる一言(204) 乳がんを治してほしいとお参りをしていました。泣きながら。

四天王寺の布袋堂

◇一言◇
 乳がんを治してほしいとお参りをしていました。泣きながら。

◇本文◇
 大阪市・四天王寺にお参りに行った時のことで、20年ほど前になる。極楽門のそばに布袋(ほてい)堂にあり、乳布袋として信仰を集めている。入り口には、おっぱいを出した女性を描いた絵馬がたくさん下がっていた。
 安産祈願の女性が多く訪れる。絵馬には「子どもに恵まれますように」「お乳が出ますように」と願いが書かれている。絵馬には年齢が書いてあり、たいていは若い人だった。
 ところが堂の世話をしている女性に聞くと、乳がんの快癒祈願で訪れる人が増えたという。そう聞いて絵馬を見ると、年配女性の願いは「乳がんを止めてください」「転移しませんように」などと深刻だ。
 再度、堂の女性と話すと、ついさっきのこととして、上記の言葉が返ってきた。最後の「泣きながら」の一言が、胸に刺さった。
 今の乳がんの深刻度と、20年前では全く違っていたのかもしれない。しかし、先日、久し振りに行ってみると、乳がんに関する願いは、相変わらず多かった。
 遍路旅の先達をしている。1泊2日ずつ回り、良い遍路道は歩き、ほかはバスで移動する。結願まで10数回に分けて巡拝する。
 あるシリーズで、札所ごとに懸命に手を合せている女性がいて、目についた。聞いてみると肺がんだった。
 夜は女性同士、男性同士で、何人かずつの相部屋になる。彼女の同室の参加者から聞いたのだが、「背中が痛い」というので、同室の仲間が薬を塗ってあげるのだそうだ。そんな関係もあったのだろう、ある日の光景が目に焼きついている。
 1泊2日の遍路が終わり、大阪市・梅田に帰ってきて、散会した。先にバスを降りた彼女は30メートルほど歩いてから、急ぎ足で戻って来て、同室の仲間に言った。「私、頑張ってみる」
 再手術を受けるかどうかを迷っていて、そんな話を仲間にしていたのだ。彼女はそれだけ言って、スタスタと帰って行った。その後、参加することはなかったが。(梶川伸)2019.08.18

更新日時 2019/08/18


関連リンク