心にしみる一言(162) 花びらが散るのを待っているのです
◇一言◇
花びらが散るのを待っているのです
◇本文◇
奈良市の喜光寺の本堂は、「試み大仏殿」と言われる。奈良時代に東大寺大仏殿を造営する際、テストをして造られてという言い伝えがあるからだ。
6月下旬から7月下旬にかけては、「蓮(はす)の寺」として、参拝者が増える。それほど広くはない境内で本堂の周りに、蓮を植えた約200の鉢が並べられる。よく手入れがされ、100ほどの品種が順番に花を咲かせる。
私を含め、カメラやスマートフォンを花に向ける人が多く、花を手前に入れ、本堂を背景に撮る人も目立つ。また、白い塀や石仏との距離も近ので、あちらでもこちらでも写真を撮っていた。
そんな中で、年配の女性がカメラも持たず、花に顔を寄せてじっと眺めているのに気づいた。何をしているのか聞いてみると、上の言葉が返ってきた。
花びらは白く、先端がほんのりピンクに染まった上品な花だった。地面に散った花びらが3片。少し時間がたっていたせいか、やや変色した部分も見えた。その女性は、美しままの花びらがほしかったのかもしれない。実際に散るまで待っていたとは思わないが、梅雨の蒸し暑いひのに、蓮と同様に清々しい風を感じた一瞬だった。(梶川伸)2018.07.10
更新日時 2018/07/10