心にしみる一言(134) ヘルメットを停留所兼事務所に届けとくから
紀伊半島を十津川・熊野川沿いに、自転車で走ったことがある。まず、和歌山県境に近い山の中の奈良県・十津川温泉までバスで行った。自転車は車輪を外して袋に入れ、持っていった。
十津川温泉で一泊。宿に着いて、ドジをしているのに気づいた。バスの中にヘルメットを忘れたのだ。気落ちしていると、翌朝になって旅館に電話があった。前日乗ったバスの運転手さんで、上記の言葉を言った。
バスを下りた後、自転車を組み立てる際、旅館の場所を事務所で聞いていたので、連絡先が分かったという。バスはさらに先まで行き、翌日折り返す途中に事務所に預けたのだった。
ありがたいことだった。実は自転車で四国八十八カ所を回った時、自転車のハンドルにつけていたバッグが外れて前方に飛び、それに前輪がぶつかり、前転のようにして頭からアスファルト道路に落ちたことがある。下り坂だったので、時速30キロ近く出ていたと思う。生死にかかわる事態だったが、それを救ってくれたのがヘルメットだった。
それ以来、ヘルメットはお守りみたいなものになった。だから、バスに忘れた時のショックは大きかった。わざわざ連絡をしてくれた運転手さんには、感謝、感謝である。
自転車で和歌山県那智勝浦町へと下りていく。熊野本宮大社で一服した。バスが止まっていた。ハンドルを握っていたのは、偶然にもヘルメットを届けてくれた運転手さん。「気をつけて」の声に送られた。
自転車に乗ると、底流所でまたバスの追いつかれた。運転手さんが「どこまで行くの」と聞く。「那智勝浦町まで温泉巡り」と答えた。軽い気持ちで行ったのだが、十津川温泉、湯ノ峯温泉、渡瀬温泉、川湯温泉、勝浦温泉と、5つの温泉のはしごはきつかった。しかし、運転手さん親切のおかげで、無事に走り終えることもでき、良い思い出もできた。(梶川伸)2017.11.15
更新日時 2017/11/15