心にしみる一言(106) 地域づくりは芸術
◇一言◇
地域づくりは芸術
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遍路旅の途中、徳島県神山町の四国山岳植物園「岳人の森」を訪ねたことがある。標高1000メートルの山深い場所にある個人の植物園で、森の主人、山田勲さんに広い園内を案内してもらった。
シャクナゲが終わり、ヒメシャガが咲き誇っている時期だった。「トロ箱1杯分を植えることから始めた」と言い、今は自生して大群落になっている。絶滅危惧種だが、これらを後の世代に残すことが使命だと、山田さんは考える。
実はこの植物園は、山田さんが気の遠くなるような歳月をかけて作りあげ、作り続けている。スタートは1972年。23歳の時だった。
高度経済成長の絶頂期だったが、その裏側で山林の人口は減っていった。山林で生まれた山田さんは危機感を持ち、人がやってくるようなものが必要と考えた。本来の仕事で得た収入を、すべて森づくりにつぎ込んだ。
「初めは5メートル先が見えないほどのジャングルだった」。そんな山を切り開き、2キロ先から水を引き、池を造り、各地の貴重は高山植物を植えていき、40年かけて3ヘクタールの植物園を完成させた。
今口にするのが、上記の「地域づくりは芸術」という言葉だ。そうでないと、人は来てくれない、という。
努力を重ねる時に、山田さんの拠り所になった言葉がある。甲子園で大活躍した地元、徳島県・池田高校(徳島県)の蔦監督の言葉「一筋の道を目指す人間は、すべてを捨ててもいい」だったそうだ。その言葉の通り、家族のことも顧みず、岳人の森づくりに没頭した。園内に池を設けた時、池に妻の名前をつけた。せめてもの感謝の気持ちだった。(梶川伸)2017.05.25
更新日時 2017/05/25