寺の花ものがたり(104) 法華寺(奈良市)の人参木=6月上旬~下旬
奈良の法華寺は、光明皇后との関係が深い寺だ。寺の建つ場所は、元は藤原不比等(ふひと)の邸宅だった。不比等の娘が光明子で、やがて聖武天皇の后となり、藤原氏が政治の実権を握っていく。
毎日新聞の奈良で勤務していたころ、旧長屋王邸から大量の木簡が出た。そごう(その後、イトーヨーカドー)の建設に伴う調査の産物だった。木簡の記述から、奈良時代の皇族や高級官僚などの生活が、具体的に分かった。例えば、庭園でツルを飼っていたこと、氷を取り寄せて酒をオンザロックで飲んでいたのではないか、といったことなどだ。
不比等にとっての邪魔者は、皇族の実力者の長屋王で、自殺に追い込んでいった。不比等邸と長屋王邸は400メートルほどの距離で、奈良時代の政争のすさまじさを感じたものだった。
本尊の十一面観音は、ハスの花とつぼみの美しい光背を持ち、姿は光明皇后をモデルにしていると伝えられる。光明皇后は慈善事業にも力を注ぎ、境内には「からぶろ」という蒸し風呂があり(現在のものは江戸時代に建設)、千人のあかを自ら流したという伝説がある。
花の多い寺で、境内の東庭園ではざまざまな植物を見ることができる。人参木(にんじんぼく)もその1つ。低木に細かい花がついている。花は細い枝に密集してついていて、雪柳のように長く伸びている。ただし、垂れ下がらず、斜め上に向かう。
色は薄い紫と白。種類が違うようで、これは台湾人参木だと、寺の人に教えてもらった。ついでに、「なぜ人参なのか」と聞いてみた。葉が人参の葉に似ている種類があるといのが答だった。
◇法華寺(ほっけじ)◇
奈良市法華寺町882。0742-33-2261。近鉄西大寺駅、新大宮駅から徒歩25分。本尊は十一面観音(国宝)。藤原不比等の住居であったものを、光明皇后が総国分尼寺として建立し、法華滅罪の寺と称した。入山有料(梶川伸)=状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください。2017.05.10
更新日時 2017/05/10