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寺の花ものがたり(91) 秋篠寺(奈良市)木蓮=3月下旬~4月上旬

2005年4月1日撮影

 奈良の秋篠寺は、しっとりと静まっていることが多い。近鉄西大寺駅から歩いて20分弱だから、割に便利の良い場所にある。ただ、観光客であふれる京都とは違うこと、周辺が住宅地であること、寺の周りが木立と苔(こけ)に包まれていることから、音の少ない澄んだ空間になっている。
 ほとんどの人の目当ては、技芸天だろう。顔は天平時代の乾漆作りで、少しうつむいて、優しさとともに憂いを帯びている。体は後の時代に作られたものだが、顔の印象が強いので、全体としても奈良時代を思わせてしまう。薄暗い堂内で、それをじっと眺める。参拝客は少なく、静寂を乱されることもない。
 色の少ない古刹(こさつ)が、春先に華やかになる。木蓮(もくれん)が大きな白い花を無数につける。日が当たれば、その白がまぶしい。
 秋篠寺の花といえば木蓮となるが、木は1本だけ。しかし、黒ずんだ堂のとのコントラストが強く、無垢(むく)の色ながら、花はあでやかに振る舞う。
 花は開きかけがいい。産毛の生えた灰緑の皮が開き、白い花が外に出てくる。ほんのりと黄緑を帯びるつぼみ。少しずつ電球のような形に花びらを開き、純白に変わり、日の光をため込んでいたように、電球よりも輝く。(梶川伸)

◇秋篠寺(あきしのでら)◇
 奈良市秋篠町757。近鉄西大寺駅から西に1.2キロ。074-245-4600。拝観有料。奈良時代末、光仁天皇の勅願で開基と伝えられる。本尊は薬師如来(重文)。伎芸天は重文で、芸能の守護神として信仰を集めている。ほかに帝釈天、日光菩薩・月光菩薩、地蔵菩薩などが重文。
=2017.03.09

伎芸天

更新日時 2017/03/08


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