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寺の花ものがたり(89) 青岸渡寺(和歌山県那智勝浦町)椿=2月下旬~4月上旬

2006年3月9日撮影

 「寺[椿(つばき)は切っても切れない縁でして」。副住職の高木亮英さんはそう切り出した。
 開山の裸形(らぎょう)上人がインドから来て熊野灘に漂着し、那智の滝で観音を感得した。約200年後、大和の生仏(しょうぶつ)上人が玉椿の大木で、如意輪観音を彫った。裸形上人時代の小さな金銅仏を体内に納め、本尊とした。そんな伝承が残っている。
 「本尊が椿でできているので、寺は椿を大事にした」。境内には20~30種、100本以上の椿がある。特に、三重塔の周りは数が多い。高木さんが好きなのは、鐘楼(しょうろう)の前にある木だという。背が高く、段の上に乗った鐘楼の屋根を超えて、枝を伸ばしている。大きな八重の花をつける。色は白とピンクが交じり、「1つとして同じ模様はない」と言う。
 本尊は高さ3メートルを誇る。秘仏になっていて、年に3回だけ開帳される。「白木でできているので、つやつやとして神々しい。つやは、椿の油のせいでしょうか」と、その姿を語る。
 本尊がなぜ椿だったのか。「温暖な気候が椿に合っていて、自生していたのかもしれない」と言って、幼いころの記憶をたどる。「くど(かまど)のそばで、刻みタバコを椿の葉で巻いて、くゆらしているおじいさんがいた。いまのフィルターの代わりだったんでしょう」。これも、椿とこの土地の関係を物語っているような気がする。
 寺を訪ねた時は、境内にたくさんある三椏(みつまた)が満開だった。三椏は和紙の原料になる。「以前は那智紙という和紙があって、珍重された」。ここにも木と風土とのかかわりがある。(梶川伸)

◇青岸渡寺(せいがんとじ)◇
 和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山8。0735-55-0001。JR紀伊勝浦駅、那智駅からバスで神社お寺前駐車場下車。境内自由。昔から神仏習合の修験道場、熊野もうでの地として信仰を集めてきた。西国観音霊場一番。隣に熊野那智大社。そばに高さ133メートルで日本1の那智の滝がある。
=2006年3月30日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2017.03.01
※毎日新聞の掲載した記事はこれで終わります。次回からは掲載分以外のものを取り上げます。ただし取材をしていなので、写真と印象が中心になります。

裸形上人 生仏上人

更新日時 2017/03/01


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