寺の花ものがたり(88) 三秀院(京都市右京区)山茱萸=2月下旬~3月下旬
天龍寺への門をくぐると、すぐ右手に三秀院がある。塔頭(たっちゅう)の一つである。
1本の山茱萸(さんしゅゆ)が、白い塀越しに見える。庭に入ると、高さは4メートルもある。細い枝を四方に伸ばし、葉が出る前に黄色の小花を集め、天に向けて咲いていた。
住職、栂(とが)承昭さんの妻洋子さんは「結婚した時にはあった。成長は遅いが立派になった」と語る。木が大きいので、写真を撮りにくる人をよく見かけるらしい。
「春1番に咲くので、毎年楽しみ」と話す。植木屋に頼んで寒肥えをやり、弱った枝を切って、見栄えをよくして春を待つ。咲いてる期間は長い。「最後は枯れて木にしがみつき、風に吹かれて散る」。散った後は、秋に松の実ほどの赤い実がなる。これも楽しみにしている。赤い実のできるものでは、梅擬(うめもどき)も好きな木だと言う。
本堂の建立や子育てに追われた日々を過ごしてきた後で、やっと花に目が向くようになったとか。「年中花が咲いているようにしたい」と、境内に次々を植物を植える。「草花は大変なので」と、もっぱら木を植える。「木は植えとったら、時期が来れば咲く」
「禅寺なので、和尚(承昭さん)は赤や黄色は好きではなさそうですが、私は好きなので、おかまいなしに」。山茱萸の前には、黄花三椏(みつまた)の花が開いていた。庭の小さな鬼縛りの木は、黄色の花をつけていた。その前で、「木の皮が固いので、鬼を縛ることもできる、と名前がついたみたいですよ」と説明する。
境内を案内してもらい、「間もなく連翹(れんぎょう)や満作が咲く」などと花談義。躑躅(つつじ)の一種で糸のようなピンクの花びらの青海波は、「息子の家に庭のものを引っこ抜いてきた」と言って笑った。(梶川伸)
◇三秀院(さんしゅういん)◇
京都市右京区嵯峨天龍寺茫(すすき)ノ馬場町64。京福嵐山駅から徒歩すぐ。075-861-0115。境内自由。1363年、慈明禅師の開山と伝えられる。本尊は聖観音。境内にある東向大黒天も信仰を集める。室町年間に、嵯峨人形師の祖の作とされ、日本三大大黒天の一つとも言われる。
=2006年3月16日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますのでご了承ください)2017
.02.27
更新日時 2017/02/27