寺の花ものがたり(80) 勧修寺(京都市山科区)臥龍の老梅=2月上旬~下旬
「4代そろっためでたい梅」。書院の前にある臥龍(がりゅう)の老梅のことを、住職の筑波常遍さんは言う。
江戸時代に京都の御所から移された。親は枯れて、根だけが残った。その根から子が生まれた。根をしっかりと張っていたからだろうが、これも遠い昔に枯れてしまった。しかし、孫が芽を出し、節分のころに、たくさんの白い花を咲かせる。早咲きの梅には、ウグイスも飛んでくる。孫の幹からは、ひ孫も誕生している。筑波さんの言う4代の梅だ。生命力の強さを感じさせる。
高さは2メートルほどである。主役の孫は、ごつごつとした真っ黒な枝を何本も上に伸ばしている。親は枯れて灰色になった枝を1本だけ、地中から突き出している。その先端は、孫のすぐそばまで近寄っている。黒髪と白髪のようにも思える。
子は巨木だったようで、色を失ったごつい幹が地をはって残っている。この様子から、臥龍の老梅を呼ばれる。先端は親と同じように、孫に寄り添う。親と子は命を失ってしまったが、命を引き継いだものに手を差し出し、守っているような風情がある。
たった1本ではあるが、存在感がある。「桜一山、梅一輪、という言葉がある。桜は山一面に咲き誇る美しさがある。寒風に吹かれ、一輪だけポッと咲く梅もまた美しい。梅は数が問題ではない」
臥龍の老梅を目当てに訪れ、「たった1本?」と、残念がる人がいる。「風流ではない」と、筑波さんの方が残念がる。
一輪の尊さを言う。「梅が咲いてくださって、ようよう春を告げてくれる。そうすると、桜が待ち遠しくなる」。「くださって」というもの言いに、梅への思いが込められているようだった。(梶川伸)
◇勧修寺(かじゅうじ)◇
京都市山科区勧修寺仁王堂町27-6。075-571-0048。地下鉄小野駅から徒歩10分。拝観有料。昌泰3(900)年に醍醐天皇の創建。庭園の氷室(ひむろ)の池に咲く睡蓮(すいれん)、杜若(かきつばた)は有名。樹齢750年と言われる這柏槙(はいびゃくしん)もある。
=2016年1月18日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますのでご了承ください)2017.01.08
更新日時 2017/01/08