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寺の花ものがたり(79) 長岳寺(奈良県天理市)藪椿=1月中旬~3月下旬

2005年3月19日撮影

 花の見方には2つあると、住職の北川慈照さんは言う。1つは種類も数も多い豪華なものを楽しむ。例えば植物園。もう1つは、生け花のようなもの。「閑静な茶室で、竹やぶから切り出した藪椿(やぶつばき)を一輪、竹の節にいける。飾るのではなく生ける。寺の花はどちらかというと、後者の方ですね。無理には咲かせない。自然なんです」
 寺という歴史のある場所で、花を見る。「すがすがしく心が洗われる。一輪の花でも、土、日の光、風といった自然の恩恵を受けて咲いている」
 長岳寺は、4月下旬から5月上旬の躑躅(つつじ)で有名だ。父の先代住職とこの寺に入った時には、今とあまり変わらない姿であったというから、70~80年にはなるようだ。続く杜若(かきつばた)もファンが多い。紫の花と池、堂の組み合わせが、写真にいい。
 それらに比べると、冬から早春にかけての椿はあまり知られない。しかし、北川さんの言う寺の花にはふさわしいのかもしれない。
 椿は自生している。「椿はなかなか大きくならんが、ごついものもある」と言って示したのは、幹の直径が20センチもあった。
 花びらは赤い色が深く、黄色のめしべを包む。葉は濃い緑でつやつやしている。ただし、一斉に咲くわけではなく、派手でもないので、そう目立たない。
 何度も寺を訪れる女性に、「飽きるのではないか」と聞いたことがあると言う。「来るたびに新しい発見があります。椿のつぼみが少し赤くなっていると、咲くのが楽しみです」と答が帰ってきたそうだ。
 「刺激が強く、主張の強い社会で生きていると、自然の花は趣が深い。精一杯命を輝かして咲き、極楽を開いている」。椿も小さな浄土をつくり出しているのだろう。(梶川伸)

◇長岳寺(ちょうがくじ)
 奈良県天理市柳本町508。0743-66-1051。JR柳本駅から徒歩20分。天理駅、桜井駅からバスで上長岡下車、徒歩10分。入山有料。弘法大師が創建したと伝えられる。本尊の阿弥陀(あみだ)三尊、多聞天(たもんてん)・増長天、楼門(ろうもん)など重文。関西花の寺霊場第十九番。
=2006年1月12日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますのでご了承ください)2016.12.30

関西花の寺霊場

更新日時 2016/12/30


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