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寺の花ものがたり(76) 神光院(京都市北区)白山茶花=11月中旬~12月中旬

2005年11月28日撮影

 寺を訪ねたのは、11月末の好天の日だった。30歩ほどの紅葉の気が、日を浴びて燃えていた。
 江戸時代から明治時代にかけての女流歌人、太田垣蓮月尼が晩年を過ごした蓮月庵がある。土に散った赤い葉を踏みしめて中に入る。しょうじ戸が開いていて、外の紅葉の景色を四角く切り取る。左端に、1本の山茶花(さざんか)が、白い花をつけていた。
 たった1本の山茶花を目当てに、やって来る人がいる。住職の徳田光圓さんによると、二十数年前に植物学者が、白い八重の大輪の花を見て、珍しいと折り紙をつけてから知られるようになった。写真が載った本も出た。
 徳田さんは恐縮したように言う。「観光寺院ではないので、宣伝もしていないのに、見に来てくれる。境内一面に咲いていると思っている人もいる。1本ですよ、というと、がっかりする。気の毒で」
 木は池のそばに立つ。空海が自像を刻むため、水面に自らを写したと伝えられるので、池は「姿見の池」と呼ばれる。木の高さは5メートル前後で、樹齢を訪ねると、「100年以上になるんちゃいますか」。
 花は直径が7~8センチ。純白の花びらは五重にも六重にも層をなす。花心がほんのりとした黄色を添える。中の花びらが開き切らず、花心を包み込んでいる花も、白一色ですがすがしい。境内にはピンクや白の一重の山茶花もあるが、この花の優美さにはかなわない。
 「木が傷んできたので一昨年、植木屋さんに枝を透かしてもらった」。枝の一部を切ったため、枝と葉が5つの棚を作っているように見える。そのすき間から池と、紅葉が見える。棚の上に、紅葉が乗る。それも優美な白があってこその風情である。(梶川伸)

◇神光院(じんこういん)◇
 京都市北区西賀茂神光院町120。075-491-4375。JR京都駅、三条京阪から京都市バス西賀茂車庫行きで神光院前下車。境内自由。空海(弘法大師)が42歳の時に、この寺で90日間修行したと伝えられる。本尊は弘法大師。東寺、仁和寺(にんなじ)とともに京都三弘法の1つとされる。
=2005年12月8日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもあるので、ご了承ください)2016.12.01
 

太田垣蓮月 空海 京都三弘法

更新日時 2016/12/01


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