寺の花ものがたり(77) 正伝寺(京都市北区)南天=12月上旬~1月下旬
山門をくぐって、冬枯れの参道を登っていく。庫裏(くり)に着くと、南天(なんてん)の赤い実が目に入る。白壁を背景にして、たわわに下がる房は、実に鮮やかだ。
住職の山崎伝宗さんは年末になると、南天を見ながら願う。「ヒヨドリが食べに来いへんかったら、赤々としたまま正月を迎えられる。せめて松の内が明けるまで食べんとってほしいが」
冬になって山に餌がなくなると、ヒヨドリがやって来る。それが正月の時期に重なることがある。「チチチ、といって飛んで来る。そうすると、1週間で実はなくなる」
1月いっぱい赤い実が楽しめるといっても、ヒヨドリ次第ということになる。ただし、「実がなくなっても、自然でよろしい」と言う。正月の参拝者が赤い実に出会えれば、「福が来る、と思えばええ」と。
山崎さんはこの寺で育った。子どものころにはすでに南天はあった。先代住職の父が植えたのかも知れないが、「鳥がふんをして、その中に種があったのだろう」と推測する。確かに、その方が自然に囲まれた寺にふさわしい気がする。
直径センチほどの幹が、束になって土から伸びている。高さは人の背の2倍ほど。少なくても60年はたっているのだろうが、高さも太さも成長は遅い。
初夏に白い花をつける。その時は蜂がやって来る。「大きな黒いのがいっぱい」。その蜂のおかげで受粉し、やがて実をつける。境内にはほかにも南天はあるが、庫裏の前が一番実が多いらしい。
自然の営みの中に身を置く南天。「ヒヨドリが食べれば、どこかにふんをして、そこに新しい芽が出るかもしれん」。そんな話を聞くと、ヒヨドリに任すのがいいと思う。(梶川伸)
◇正伝寺(しょうでんじ)◇
京都市北区西賀茂北鎮守庵町72。075-491-3259。京都駅などから西賀茂車庫行きバスで神光院前下車、徒歩15分。重文の方丈や比叡山を借景にした獅子(しし)の児渡し庭園の拝観有料。鎌倉時代に東巌慧安(とうがんえあん)が創建。本尊は釈迦如来(しゃかにょらい)。
=2005年12月15日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2016.12.10
更新日時 2016/12/10