寺の花ものがたり(75) 斑鳩寺(兵庫県太子町)山茶花=11月中旬~1月上旬
「冬は花のない時期なのでありがたい」。住職の大谷康文さんは山茶花(さざんか)の木に感謝する。
庫裏(くり)の前に2本。どちらも柔らかなピンクの花で覆われる。1本は庭の中にあるので見にくいが、もう1本は建物の入り口のそばにあるので、じっくりと眺めることができる。
高さは3メートルあまりだから、大きいわけではない。だが、幹を見ると、モコモコとして、生きてきた年月の長さを感じさせる。
30年ほど前、庭の方の木の太い枝が枯れた。その枝を切り落とした際に年輪を数えると、100くらいだったそうだ。幹の太さを切った枝と比べ、樹齢を300年ほどと推定した。
寄る年波か、樹勢が少し弱ってきたと、大谷さんは感じている。「弱っているから花をたくさんつけて、子孫を残そうとする。ところが、花を咲かせると、木のエネルギーが失われる」。だから、つぼみを摘む。しかし、取っても取っても、花を木一杯につける。「けなげです」と評する。
散った花びらが、よく葉にくっついてしまう。それを取り除くのだが、手間がかかる。それも花の数が多いからだ。そのうち、樹木医に本格的な治療をしてもらうことも考えている。
何代か前の太子町長が、この木にヒントを得て、町木を山茶花と決めた。境内の一角は児童公園になっていて、町が山茶花の生垣を作った。数十本ある。こちらの木はまだ若い。花は鮮やかな赤。庫裏の前より遅れて咲き始める。
生垣のそばに、聖徳殿の奥殿がある。法隆寺の夢殿を模した八角円堂で、山茶花の背景にはいい。屋根の緑青(ろくしょう)と、赤い花もマッチする。奥殿の中には、本物の髪の毛を植えた聖徳太子像「植髪の太子」が安置してある。(梶川伸
◇斑鳩寺(いかるがでら)◇
兵庫県揖保郡太子町鵤(いかるが)709。0792-76-0022。JR網干(あぼし)駅からバスで鵤下車、徒歩5分。境内自由。宝物殿と聖徳殿の拝観有料。飛鳥時代に聖徳太子の創建と伝えられる。本尊は薬師如来、釈迦如来、如意輪観音。重文に三重塔、日光・月光菩薩、十二神将など。
=2005年12月10日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況がかわっている可能性もあるので、ご了承ください)2016.11.24
更新日時 2016/11/24