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寺の花ものがたり(74) 医王寺(兵庫県篠山市)喇叭銀杏=11月中旬~下旬

2005年11月10日撮影

 小さな集落にある小さな寺。無住の寺で、住職は西禅寺の森口光堂住職が兼ねる。小さな本堂の前に、1本の銀杏(いちょう)の木が立っている。葉の1割程度が、喇叭(らっぱ)状になっていて、兵庫県の天然記念物に指定されている。単に平たい葉が丸まっているだけではない。形自体が喇叭なので、葉の重なりも継ぎ目もない。
 取材の際は、県立ささやまの森公園長の樋口清一さんに案内していただいた。「銀杏は原始的な植物。茎が発達して葉になったとみられ、喇叭の葉は原始的な葉。普通の銀杏にもたまにあるが、ここの木は数が多い」。そんな話を聞きながら寺に着いた。
 説明板によると、木は高さ20メートルで推定樹齢は300年。形を「ロート状」と表現していた。「昭和35(1960)年に辻啓介さんと湯浅浩史さんが発見。茎先端の原生初皮が葉の性質を帯び、中央の柔細胞が退化した結果、ロート状になり、さらに一端を開いて葉状になった」と、学問的に解説してあった。
 土の上に落ちた喇叭を探す。時期が少し早かったのか、実も葉もそれほどたくさんは落ちていない。木の周りを歩くが、見つからない。枝についた喇叭を探すことにしても、手の届く高さに枝はない。樋口さんは持参した枝切りばさみを取り出した。3メートルほどに伸びるもので、上の方に狙いをつけた。ところが、目を凝らしても、はさみが届くあたりの枝には喇叭がない。
 近所の人に聞くと、「もう少しすれば、いくつも落ちているのに」と言う。お願いして脚立を借りた。脚立に乗り、はさみを伸ばし、やっと喇叭を見つけた。その小枝は確かに、密集した葉の1割ほどが喇叭だった。西禅寺の許可もらっての写真撮影だったが、大騒ぎだった。(梶川伸)

◇医王寺(いおうじ)◇
 兵庫県篠山市北。JR篠山口駅からバスで本篠山下車、徒歩10分。境内自由。曹洞宗の寺だが、歴史的なものははっきりしない。本尊は薬師如来。母乳が出るようにお参りする乳薬師として信仰を集める。連絡先は西禅寺(079-594-0781)。近くに篠山城跡や河原町妻入商家群がある。
=2005年11月17日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もあるので、ご了承ください)2016.11.17

兵庫県立ささやまの森公園

更新日時 2016/11/17


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