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寺の花ものがたり(73) 久安寺(大阪府池田市)紅葉=11月中旬~12月上旬

2004年11月26日撮影

 本堂の縁に置かれた木のいすに座って、住職の國司(くにし)禎相さんは語り始めた。目の前は、虚空蔵菩薩(こくぞうぼさつ)から名をとった庭園「虚空園」。「虚空蔵菩薩は天国に導いてくれる。ジェット機の運転手やな」。天国までジェット機では無理だろうが、現代風な言葉に置き換えながら、楽しい会話が続く。
 庭園の中心を池が占め、周りをさまざまな草木が埋める。紅葉もある。さらに外側には、杉がびょうぶのように立っていて、落ち着いた空間を作り出している。「人生と自然を対比しながら、物思うことが大事」。そんな言葉がスッと心に入ってくるのも、この場所だからだろう。
 牡丹(ぼたん)や紫陽花(あじさい)で名高い寺だが、秋になると朱に染まる。江戸時代の摂津名所図絵に、この寺の紅葉が出ていると言う。「観光図書に載ったので、遠くから見に来たらしい」
 広い境内一円に、紅葉の木はある。ある時、大阪府が200年以上の古木を調べてほしいと言ってきた。「そんな昔に生まれてへんわ」と冗談を飛ばしながら、70本まで数えたと言う。新しく植えて、まだ小さい木もたくさんある。
 庭園から参道を隔てた所に、地蔵堂がある。堂の横には蓮(はす)池。ここの紅葉も美しい。「古くなった木は、枝を下ろしてくる」。花を失った蓮の茎の上に、古木が赤い葉の傘を差しかける。昭和の初めには、大阪の二十景に選ばれた紅葉らしい
 楼門(ろうもん)からの参道も、紅葉の並木になっている。小山からも、赤い葉が落ちてくる。
 「紅葉は散ると、チリチリに縮れる。ところが雨にあたると、赤い色が戻る。命というのは大したもんや」。植物もまた、命なのである。(梶川伸

◇久安寺◇
 大阪府池田市伏尾町697。072-752-1857。阪急池田駅からバスで久安寺下車。拝観有料。行基の開創とされ、久安1(1145)年に再興され久安寺に寺号を変えた。豊臣秀吉が月見茶会をしたと伝えられる。本尊は千手観音。関西花の寺霊場第十二番。
=2005年11月10日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている考えられますので、ご了承すださい。2016.11.08

更新日時 2016/11/08


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