心にしみる一言(78) 鉄の扉が真っ赤になって仏像を守った
◇一言◇
鉄の扉が真っ赤になって仏像を守った
◇本文◇
重文に指定されている天平時代の聖観音を、香川県さぬき市の願興寺に見に行ったことがある。本堂から離れた収蔵庫に安置されていた。
脱乾漆の座像で、少女のような初々しさがあった。顔は小さめ。ほおは柔らかく膨らんでいる。子どものほおは、まるで若葉を日に透かして見るような優しさとすがすがしさがある。この天平仏もそうだった。鼻は小さく、目は切れ長で、少し波を打っている。口はおちょぼ口だった。
まゆと目の間には、金ぱくが粉をふったように点々残っている。最近の化粧法を連想させ、顔のちょっとしたアクセントになっていた。
よくぞ今まで、私を待ってくれていた。そんな勝手な思いをしていると、寺の人が火事に見舞われた話をした。その時は、収蔵庫は本堂のそばだった。美少女を守った扉に感謝しながら聞いた。(梶川伸)
=2002年12月13日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2016.10.13
更新日時 2016/10/13