寺の花ものがたり(64) 岩湧寺(大阪府河内長野市)秋海棠=8月下旬~9月中旬
寺は岩湧山(いわわきさん)の中腹にある。山頂の標高が897.7メートルだから、500メートル前後だろう。一帯は大阪府の森林公園「岩湧の森」として整備され、ハイキング客などが数多く訪れる。公園を管理する四季彩館(しきさいかん)の解説管理員、太田祐子さんは「低い山にしては花が豊富です」と、魅力を語る。
秋海棠(しゅうかいどう)の多さには、みんなが目を見張る。本堂や多宝塔のそばから谷筋が伸び、斜面はピンクの花で覆われる。ピンクではあるが派手ではなく、柔らか味のある色を見せる。雄花には、細かなビーズのようなおしべがあり、その黄色の玉も可愛らしい。
四季彩館の資料によると、中国からマレー半島原産のベゴニア属の植物で、日本には寛永年間(1624~44年)に渡来した。日本の戸外で越冬できる唯一のベゴニアらしい。
秋の彼岸のころに咲くため、もとは墓に供える花として植えられたとも伝えられている。雌雄同株で、先に雄花が咲き、雌花が後を追う。宿根草だが、茎にできるむかごでも増やすことができる。しかし、「街中では育ちにくいようですよ」と言う。逆に言えば、寺の辺りの環境が、この花にとって大変適していたことになる。
住職が住み込んでいる寺ではいので、信徒らが花の世話をしている。信徒総代の新谷勝弘さんは「所々に咲いていたものを、昭和50年代から増やすことにした。除草して管理したら、急激に広がった」と経緯を話す。
秋の山は、秋海棠以外にも花の楽しみがある。太田さんは、瀬戸内杜鵑(せとうちほととぎす)や薄(すすき)の草原をあげた。現証拠(げんのしょうこ)も、赤い愛らしい花をあちこちに残している。(梶川伸)
◇岩湧寺(いわわきでら)◇
河内長野市加賀田3824。河内長野駅からバスで神納(こうの)下車、徒歩1時間あまり(便少ない)。南青葉台口からは2時間弱。境内自由。役行者(えんのぎょうじゃ)の開基と伝えられる。本尊は十一面観音。寺周辺は大阪みどりの百選。問い合わせは四季彩館(0721-63-5986)。
=2005年9月8日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもあるので、ご了承ください)2016.08.24
更新日時 2016/08/24