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寺の花ものがたり(63)百毫寺(奈良市)萩=9月中旬~下旬

2004年9月23日撮影

 「こぼれ落ちるように咲く」。住職の宮崎快尭さんは、萩(はぎ)の花をそう表現する。「もの寂しい感じがする。静かにものを考える秋にはいい」とも言う。
 115段の石段を登る。左右に赤紫と白の細かい花。途中でさびた山門をくぐると、しなだりかかるほどに、萩が迫ってくる。
 寺は高円山(たかまどやま)を背景に建つ。山号は高円山と書いて「こうえんざん」と読ます。「万葉集には高円山の萩を詠んだ歌がいくつもある」。萩への思い入れは強い。
 もとは石段に桜が植えてあった。根が石を動かし、やむをえず切った。「その後に、世話方が萩を植え、それが意識的に増やすきっかけになった」
 宮崎さんは団体の参拝者に、花説法をする。「花には形があり、色があり、香りがある。人間に働きかけて、安らぎを与える知恵がある。花の知恵を知ってほしい。そうすれば、花も咲きがいがあって喜ぶ」
 花が終わると、葉が黄色に染まる。「それも1つの眺め」だが、12月には、翌年に備えて切る。切った茎で筆を作る。萩の命を生かすことになると言う。
 筆には「萩のしずく」という名がついている。書の師匠で東大寺管長も務めた清水公照さんが、名づけ親だと明かす。「でき上がった筆を持っていくと、即座にその名が出た」。その名をもらいたいと頼むと、「あんたがつけたことにしなさい」と言った。「亡くなられたので、本当のことを言ってもいいでしょう」
 寺からは、夕日が山に沈むのが見える。花説法では「朝日は希望、夕日はやすらぎ。夕日は感性を高める」とも語る。
 門限があり、境内から眺めるのは無理だが、萩を楽しんだ帰路に、西の空を見上げるのもいい。秋は夕焼けも美しい。(梶川伸)

◇百毫寺(びゃくごうじ)◇
 奈良市白毫寺町392。0742-26-3392。近鉄奈良駅から循環バスで高畑下車、徒歩20分。拝観料有料。草創は志貴皇子(しきのみこ)の山荘跡を寺にしたと伝えられる。鎌倉時代に叡尊(えいそん)が再興。本尊は阿弥陀如来。関西花の寺霊場第十八番。3月下旬からの五色椿も有名。



=2005年9月1日の毎日新聞に掲載したものを再掲載。(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2016.08.19

高円山 清水公照 志貴皇子 叡尊 五色椿 関西花の寺霊場

更新日時 2016/08/19


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