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寺の花ものがたり(62) 天上寺(神戸市灘区)百日紅=8月中旬~9月上旬

2005年8月17日撮影

 参道の150段ほどの石段を登ると、開放的な境内に出る。摩耶夫人(まやぶじん)堂に百日紅(さるすべり)の赤い花が咲きかかっていた。女郎花(おみなえし)と石仏に囲まれて咲く花もある。貫主の伊藤浄厳さんは「山上なので、花は少し遅いんですよ」と話す。
 木は散在している。「30本はあると思う」と言う。しかし、数は少ないように見える。実は、境内の整備のために、本堂の裏などに一時的に移植している。この冬には、また目につく場所に戻すそうだ。
 寺は百日紅を大切にしてきた。理由の1つは、空海と寺との伝承による。空海は唐から摩耶夫人像を持ち帰り、この寺に安置した。摩耶が無憂樹(むゆうじゅ)の花の美しさにひかれて手を伸ばした時、わきの下から釈迦(しゃか)が生まれた、との仏伝がある。無憂樹の花と百日紅の花は似ているらしい。
 堂の中の麻耶夫人は1976年の火災の後に造られ、右手にその花を持っている。花は金色に塗られ、色は分からない。「比べるなら、像が乗る須弥壇(しゅみだん)に描かれた絵を見なさい」と教えられた。見ると、赤い花が身を寄せ合って描かれている。その色と風情が百日紅を連想させるのだろう。
 本尊との関係についても言及する。「8月8日は本尊十一面観音の最多功徳日で、その日にお参りすると、4万6000日のお参りに相当する。その8月に美しく咲く」と。
 「花の玉が重たくなると枝が垂れて、仏にかざしているがごとく見える」。その様から天蓋花(てんがいか)と親しみを込めて言う。
 摩耶夫人像にちなんで名づけられた摩耶山。寺は標高700メートルの山頂にある。「山の寺には百日紅が似合う。海岸の寺も」。寺の眼下には、神戸の街と海が広がっている。(梶川伸)

◇天上寺◇
 神戸市灘区摩耶山町2。078-861-2684。三宮またはJR六甲道、阪急六甲駅からバスで摩耶ケーブル下下車。まやケーブル、ロープウェーで星の駅下車、徒歩10分。入り口に志納料の箱。大化2(646)年の創建と伝えられる。安産の腹帯の寺としても知られる。関西花の寺霊場第十番。
=2005年8月25日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2016.08.09

摩耶夫人 無憂樹 関西花の寺霊場

更新日時 2016/08/10


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