このエントリーをはてなブックマークに追加

寺の花ものがたり(59) 円成寺(奈良市)桔梗=7月中旬~8月上旬

2005年7月19日撮影

 奈良の市街地から柳生(やぎゅうに抜ける道筋に寺はある。道路沿いから境内が始まり、堂宇はこんもりとした林の自然に包まれている。桔梗(ききょう)は一群(ひとむら)となって、夏の本堂に涼やかさを送る。
 住職の田畑祐弘さんは「苔(こけ)の中に桔梗が点々と咲く庭もいいと思うが、手入れをようせん」と語る。手入れは雑草を引き、花がらを摘むくらいで、「ほったらかし」だそうだ。とは言いながら、根底には「花は自然の方が、この寺の雰囲気に合う。あまり意図して庭を作らない」の思いがある。名勝に指定されている池を中心にした平安時代の庭園とのバランスは考えるが。
 桔梗は先代住職がたまたま植え、長い歳月のうちに少しずつ広がっていった。根が強くて、虫もつきにくいらしい。「茎を折ると、粘液が出る。なめると苦い。だから、虫も好まないのかもしれない」
 しかし、増えた最大の理由は、場所が合ったのだと推測している。楠(くすのき)が木陰を作り、地面には苔が生えて少し水分をたたえる。「西日がさす所は適さないみたい」。もらった苗を植えてみたことがあったが、育たなかった。
 数はそれほど多いわけではない。「花は目立たせるものではない。少しずつあればいい。あんまり期待されても」と控えめだ。数えたことはないので、「見える範囲」と表現する。
 桔梗の花が咲くと、「お盆の季節が近づいてきた」と感じると話す。「愛らしく清楚(せいそ)な花。色合いが日本人の感覚に合う」
 つぼみもいい。花よりは紫が薄く、四角い箱のような形で、折り紙の風船のような風情がある。そんな印象を伝えると、「そのデザインは、茶釜のつまみなどの工芸品にも使われる」と教えられた。(梶川伸)

◇円成寺(えんじょうじ)◇
 奈良市忍辱山(にんにくせん)町1264。0742-33-0353。JR奈良駅、近鉄奈良駅から月ケ瀬温泉行きバスで忍辱山下車(便はごく少ない)。拝観料400円。万寿3(1026)年に命禅上人が十一面観音をまつったのが始まり。本尊は阿弥陀如来。運慶の初期の作、大日如来がある。
=2005年8月4日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている梶川伸の生もありますのでご了承ください)2016.07.21

柳生

更新日時 2016/07/21


関連地図情報

関連リンク