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寺の花ものがたり(58) 天龍寺(京都市右京区)蓮=6月中旬~8月上旬

2005年7月16日撮影

 「嵯峨(さが)は早朝がきれい。もやがかかった嵐山は絶景。霧が上がっていくのもいい。自然の流れが大切なんや」。宗務総長の栂(とが)承昭さんが言う。だから、「天龍寺は朝が一番なごむんちゃうかな」となる。
 早朝に、放生池(ほうじょうち)で蓮(はす)が咲く。花好きの栂さんはスケッチをし、カメラを向ける。「日が昇ってくる時、少しずつ花が開き始める。夜露にあたってみずみずしい。開き終わるころは、その力がいい」
 放生池は勅使門(ちょくしもん)を入った所にある。拝観料がいらない区域にあるのがうれしい。生き物を放つ池が放生池で、「生き物を大切にする。水は生きとし生けるものの源」の考えが込められているらしい。
 寺の食事は、朝はおかゆ、昼は麦飯、夜は残飯(残りもの)で、食べる前にご飯を7粒ほど取っておく。それを生飯(さば)と言い、食事の後に集め、放生池にまき、鳥のえさにもするのだそうだ。池にはコイが泳いでいた。「生飯は供養のためでもあるし、花の肥料にもなる」
 栂さんは子どものころ、放生池で釣りをし、いかだを組んで浮かべて遊んだと言う。蓮を植えたのは、昭和30年代か40年代だそうだ。「池の壁面が崩れ、コンクリートを張る時に、何か心に安らぎをもたらすものを、と蓮池にした」
 池は2つに分かれている。北の池の蓮は葉が大きいうえに密生し、花がうずもれるほど茎が伸びている。南の池は、北ほどは込み合っていない。一昨年、南の池の底の泥を取って、植え直したためだ。
 「池の泥はだれも見られへん。蓮が覆って浄化する、きれいにする」。そんな蓮は、やはり早朝に見るべきなのだろう。きっと、見る人の心や気持ちもきれいにする。(梶川伸)

◇天龍寺◇
 京都市右京区嵯峨天龍寺茫ノ馬場町68。075-881-1235。京福電車嵐山駅からすぐ。放生池は無料。本堂と庭園の拝観は有料。後醍醐天皇の菩提を弔うため、足利尊氏(あしかがたかうじ)が夢窓国師を開山として創建。庭園「曹源池」は特別史跡名勝第1号で、世界文化遺産に登録。
=2005年7月28日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もあしますのでご了承ください)2016.07.09

後醍醐天皇 夢窓国師

更新日時 2016/07/09


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