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寺の花ものがたり(52)雲迎寺(滋賀県日野町)皐月=6月上旬~中旬

2005年5月28日撮影

 質素で小さな山門だ。長さ50センチほどの黒塗りの板に、白地で山号が書いてあり、くぎで打ち付けてある。背の高い人は、少し腰を曲げてくぐらないと、頭をぶつけてしまう。
 境内はR皐月(さつき)に覆われている。住職の杉浦隆成さんは「1000株か、もっと多いかも知れん」と言う。
 本堂の前は、筋目のついた小石の庭になっている。小山があり、貞和5(1349)年の銘がある宝篋印塔(ほうきょういんとう)が立っている。その小山を、刈り込んだ皐月が包んでいる。高さは2メートルをゆうに越す。波間に浮かぶ大きな島のようだ。さまざまな形に作られた小島を従えている。
 宝篋印塔を包む皐月が古い。「元和3(1617)年ものと伝えられている」と言うので、400年近い時を生きている。葉は深い緑。「10株くらいが、中央で枝を張っている」。周辺をやや若い木が囲む。種が落ちて増えたようだ。
 赤、桃色、レンガ色、紫、白。「桃色も濃いの薄いの、赤も真っ赤と普通の。花は十色くらいある」
 先代住職が増やし、杉浦さんも挿し木で300株ほど植えた。刈り込みも自分でする。「あっちから見て、こっちから見て」。電動の器具を使っても、10日はかかる。「手でやっていたころは1カ月かかった」と思い出す。
 400年の皐月は、虫にやられるのが気にかかる。「きめが細かいので、虫にはおいしいのだろう。ところが昔は、小さな鳥が茂みに入って、チチチチ鳴きながら遊び、虫を食べた。最近はやって来ん。田の農薬でやられたんだろうか」
 耳が少し遠いこともあってか、寺の説明を女性の声で録音して流している。説明の最後に「バイバイ」と言う。ユーモラスで、ほほえましい。(梶川伸)

◇雲迎寺(うんこうじ)◇
 滋賀県蒲生郡日野町音羽261。0748-5-3914。JR近江八幡駅か近江鉄道日野駅から北畑口行きバスで上音羽下車、徒歩10分。境内自由。もとは天台宗で地蔵院と号したが、京都・法然院の忍徴上人により再興し、浄土宗地蔵院雲迎寺となった。本尊は阿弥陀如来。鎌倉時代の延命地蔵もある。
=2005年6月9日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もあるので、ご了承ください)2016.05.16

更新日時 2016/05/16


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