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寺の花ものがたり(51)長慶寺(大阪府泉南市)紫陽花=6月上旬~中旬

2012年6月8日撮影

 松永雄重さんが住職になったのは、1958年だった。「お化け屋敷」と言うほどの荒れ寺だったらしい。檀家は11軒。他に職を持つことをせず、住職に専念し、檀家を増やすことと、1人でも多くの人に来てもらうことに努めた。
 方策の1つが、花の寺だった。「花を見に来れば、ついでにお参りもして、観音さまにも手を合わせてくれるはず」と考えた。
 紅葉を600本も植えた。しかし、「京都のように底冷えする場所でないと、色がパッとしない」。梅も試した。納得せず、行き着いたのが紫陽花(あじさい)だった。
 きっかけがあった。20年近く前、近くの片木珠千個さんが、自宅の紫陽花を参道脇に10株ほど植えた。「あじさい、というほれ込むような響き。親しみやすいし、可愛い。こりゃあいい」。そう思ったと言う。
 お手伝いの人と2人で、毎年300~400株を増やしていった。苗代のようなものをつくり、そこで1~2年育てた後、挿し木で植えていった。
 「日が差さんといかん。陰もいる。水分がないと、しおれる。ぜいたくな花」と評する。しかし、寺の土が適していた。今は5000株ほどが境内を彩る。
 寺の再建話は涙ぐましい。畑を開墾(かいこん)して、自給自足のような生活をした時期もあった。お布施が1万円たまると、障子やふすまを順番に自分で張り替えた。土塀が崩れていて、土を練って積んでいった。素人なので、下の方から流れていった笑い話も聞いた。
 今は檀家が600軒を数える。「心を込めれば、あんばいがよくなる」。昨年、三重塔の落慶をした。お布施でまかなったそうだ。自分はマイカーを軽自動車に替え、願をかけた。取材後、その軽で駅まで送ってもらった。(梶川伸)

◇長慶寺◇
 大阪府泉南市信達市場815。JR和泉砂川駅から徒歩15分。0724-33-2692。境内自由。奈良時代に海会宮寺として開創。慶長3(1598)年に豊臣秀頼の命で移築し、長慶寺に。本尊は如意輪観音(秘仏)。

更新日時 2016/05/08


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