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寺の花ものがたり(53)天得院(京都市東山区)桔梗=6月中旬~7月上旬

2005年6月14日撮影

 「寺の紋が桔梗(ききょう)なんです。理由は定かではないんですが」。住職の爾(その)英峰さんは言う。確かに、建物や屋根の瓦などに、桔梗の花があしらってある。
 縁に座る。杉苔(すぎごけ)の柔緑が、柔らかく庭を埋めている。苔のじゅうたんのあちこちで桔梗の茎が伸び、紫の花を広げている。白もあり、八重も交じる。
 先代住職で父の文敬さんが40年ほど前に入り、寺を復興するとともに、穏やかな桔梗の庭に造りあげた。英晃さんも、小さいころから手伝い、そこで知ったのは「しっかりと手入るする」ことの大事さだった。
 「名もなき庭なので」と、桔梗のいいこの時期の1カ月と、紅葉に染まる11月だけ、庭を公開している。「花を見ることで、心の安らぎを感じてほしい」。美しい花を咲かせるために、間引きをして栄養を1カ所に集中させる。期間中は毎朝1時間をかけて、花がらをとる。
 公開期間が過ぎると、枯れた状態にし、8月になって自然に種が落ちるのを待つ。「間引きをして、しっかり育てないと、種が落ちても育たない」
 種は3月から4月にかけて芽を出し、ヒョロンとした若い茎を伸ばす。それまでに、熊手で胞子を飛ばすなどの苔の手入れをしておく。そうしないと、桔梗に肥料を与えた時に、苔がだめになる。
 種から育つので、年毎に少しずつ花の位置が動く。しっかり手入れをすることで、花が増え、毎年の美しさを保ってきたのだろう。
 「あわただしい世の中。足を止めて庭を見ていただき、落ち着いてもらいたい」。土塀の外側には道路に面して、柏葉紫陽花(あしわばあじさい)も咲いていた。落ち着きをもたらす心配りは、庭の中だけではなく、外にも広がっていた。(梶川伸)

◇天得院
 京都市東山区本町15東福寺山内。075-561-5239。JR、京阪東福寺駅から徒歩10分。拝観有料。南北朝時代の創建。文英清韓住持が豊臣秀頼に京都・方広寺の鐘の銘文を頼まれ、「国家安康 君臣豊楽」の字が徳川家康の怒りを招き、寺が取り壊された歴史を持つ。本尊は千手観音。
=2015年6月23日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますのでご了承ください)2016.05.22
 

更新日時 2016/05/22


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