心にしみる一言(63) 「分かった」と、まばたきで伝えたのでしょう
◇一言◇
「分かった」と、まばたきで伝えたのでしょう
◇本文◇
人は息を引き取る間際に一瞬、生の輝き見せ、気持ちを何かの形で伝えるのではないか。徳島ラジオ商殺し事件で、内縁の夫殺しの犯人として服役しながらも、出所後は無実を叫び続けた冨士茂子さんの死を取材して以来、そう思っている。
5度目の再審を求め、裁判所が12回目の審理をした日に、その時はやってきた。すでに危篤状態が続いていた。裁判所はそれを勘案し、再審請求は姉弟妹に引き継ぐことができると決定した。
審理がすみ、おいが病室を訪ねて、「きょうの裁判、うまくいったけんな」と伝えた。すると、意識不明なのに、目を開き、また閉じたという。
10分後に心臓が停止し、間もなく永眠した。おいの報告は、聞こえたに違いない。死後再審が始まり、無罪判決が出たのは6年後だった。(梶川伸)
=2002年8月30日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2016.04.25
更新日時 2016/04/25