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寺の花ものがたり(45) 弘川寺(大阪府河南町)海棠=4月中旬 

2004年4月12日撮影

 「願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」と詠んだ西行は、願いの通り、桜の咲き始めるころ、この寺で世を去った。西行を慕った江戸時代の似雲(じうん)法師が境内に「花の庵」を建てて住み、西行に供えるため、山桜を植えた。西行800年忌の1989年には、1000本の桜を植えた。
 その桜が散るころに、本坊庭園にある1本の海棠(かいどう)が咲き始める。花は桜に似るが少し大きく、柔らかな桃色を見せる。中国原(産の木で、住職の高志慈海さんは「唐の玄宗(げんそう)皇帝が、雨に濡れた海棠の美しさを、楊貴妃(ようきひ)に例えた」と、故事を語る。
 推定樹齢350年。日本では最も古いと言われ、大阪府の天然記念物に指定されている。さすがに衰えは隠せない。「きゃしゃな弱い木で、虫がつきやすい。これだけ長年もっているのが珍しい」。ジャングルジムのように組まれた支柱で、木は守られている。
 昨年までの4年間、樹木医が治療にあたった。ところが、これほどの古木の例がないので、マニュアルがない。「樹木医10人ほどが集まって、処置を考えた」と言うので、手探り状態だったようだ。
 土を入れ替えた。「皮だけで生きていた」と語る幹の空洞になった部分には、発泡スチロールを埋めた。枝も切った。「もっとたくさん切る、という案も出たが、花が寂しくなるので、思いとどまった」。高志さんは子どものころに比べ、「木が小さくなった」と感じるが、長生きしてもらうにはやむをえなかった。
 樹高は8メートルほどある。すぐ横に、ひょろひょろとした若木が2メートルにまで成長した。挿し木で育つ2世。大きくなったら合体させて、親子の二人三脚で長寿をはかるそうだ。(梶川伸)

◇弘川寺◇
 大阪府南河内郡河南町弘川43。0721-93-2814。近鉄富田林駅からバスで河内(こうち)下車。さくら坂行きバスでは河内小学校前下車、徒歩15分(便少ない)。本坊庭園の拝観有料。本尊は薬師如来。境内に西行を葬る墓がある。
=2005年4月15日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性がありますのでご了承ください)2016.02.29

西行 似雲

更新日時 2016/02/29


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