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寺の花ものがたり(41) 正暦寺(奈良市)福寿草=2月中旬~3月上旬

2005年2月21日撮影

 「見える範囲が寺域」。山に抱かれた寺だと説明しながら、住職の大原弘信さんさんは言った。「1000年かけて、山が選別してきた木々の緑を大切にし、木漏れ日が差す土に咲く花も大事にしたい」
 福寿草(ふくじゅそう)は、客殿の福寿院に入る参道にある。寺のファンが院の名にちなみ、15年ほど前に80株を植えた。その後に補植もしたが、数が減ったのが残念で、ポツポツと咲く。
 数多い南天が、ブドウのごとくふんだんに赤い実をつける。鳥が実を食べ終わったころに、福寿草は山吹色の輝きを見せ、「小判のように光って見える」。
 曇の日に訪れ、花びらが閉じていて、がっかりする人がいる。「日が当たらないと、花は開かない」。自然を敏感に反映する。「1つの花は、開いたり閉じたりしながら、20日ほど咲く」。咲き終わると、花のサイクルは梅へと移る。
 寺は最盛期には、120の僧坊を抱え1。しかし、「歴史の中で消えていった」。本堂もなくなり、いまは塔頭(たっちゅう)の一つだった福寿院があるだけだ。
 なぜ寺としては残ったのか。大原さんは考え、自分なりの結論にたどり着いた。「本尊は薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)。瑠璃は青だが、日本人は緑も青も同じように感じるので、この山の緑こそが、瑠璃光浄土だったからではないか」
 秋の紅葉は名高い。「意図があって植えたに違いない。春の若葉の淡い緑は、心が安らぐ。そんな宗教的空間を作ったのだろう」
 明治時代の寺の文書に、次の一文を見つけたと言う。「山に踏み入れば仙境の感あり」(梶川伸)

◇正暦寺◇
 奈良市菩提山町157。0742-62-9569。奈良駅から米谷行きバスで柳茶屋下車、徒歩30分(便はごくわずか)。JR帯解駅から徒歩1時間20分。境内は自由だが、福寿院の拝観は有料。992年の創建。清酒発祥の地と言われる。
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更新日時 2016/01/30


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