寺の花ものがたり(39) 浄瑠璃寺(京都府木津川市)馬酔木=2月中旬~3月下旬
つつましい山門である。両脇には仁王ではなく、前だれをした小さな石仏が立っていた。参道は馬酔木(あしび)の並木。ちっちゃな白い花は、身を寄せ合うようにして房となっていた。「馬酔木より低き門なり浄瑠璃寺」。水原秋桜子が詠んだ景色が、そのままある。
その房に、住職の佐伯快勝さんは、仏教の世界を重ねる。お釈迦(しゃか)さんは、僧伽(さんが)とよう言っとる。仏法僧は塊を作る。人のつながりの中で、人間は成長する。1人で悟りを開いたって、意味はない」
寺山にあった馬酔木を、並木に植えた。「同じような顔をして並んどるが、あわてもんは年末から咲く」。もの言いには、植物と人間の区別がない。「自然と人間が仲ようなるしかない」。そんな信念が、言葉の端々にうかがえる。
「冬の手入れは、プロにやってもらう。夏は寺のもんだけでする。草ぼうぼうになる。そうすると、野生の花がいっぱい咲く」。竜胆(りんどう)、河原撫子(かわらなでしこ)、桔梗(ききょう)。それらの花を意識的に育てるために、花を刈らない。自然に任せるのだろう。
寺の名は、東の本尊、薬師瑠璃光仏(やくしるりこうぶつ)に由来する。「東方浄土。透明で清らかで純粋な世界」。馬酔木もまた「すがすがしく、香りも清らか」。
西方浄土を象徴するのが、西の本尊、九体の阿弥陀如来(あみだにょらい。訪ねた時、東西の堂間の池は氷で覆われていた。馬酔木の花が増えるにつれ、「浄瑠璃寺の春」がやってくる。堀辰雄のその名の本が、たくさんの人を寺にひきつけた。「戦争などとは無縁の理想郷を描いたんですよ。そんな形の抵抗もある」(梶川伸)
◇浄瑠璃寺(じょうるりじ)◇
京都府木津川市加茂町西小(にしお)札場40。0774-76-2390。JR加茂駅か奈良駅からバスで浄瑠璃寺下車(便少ない)。タクシーでは加茂駅から2000円弱。拝観有料。平安時代の創建。九体阿弥陀如来像、阿弥陀堂、三重塔は国宝。
=2005年2月25日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもかんがえられますので、ご了承ください)2015.12.30
更新日時 2015/12/30